大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所 平成10年(ワ)619号 判決 1999年6月21日

第一事件原告・第三事件被告

所良靖外九名

第二事件原告・第三事件被告

植野一志

第三事件被告

所邦子外七名

第四事件被告

小田欣一郎

第五事件被告

宗行忠雄

第六事件被告

藤井陽一郎

第七事件被告

西原道雄

右二三名訴訟代理人弁護士

湖海信成

右補佐人

田村哲夫

第三事件被告所良靖、同所邦子、同三村志よう補助参加人

大阪府中小企業信用保証協会

右代表者理事

服部正敏

右訴訟代理人弁護士

大家素幸

第一事件、第二事件被告

グランドパレス高羽管理組合

右代表者理事長

中野久義

右訴訟代理人弁護士

岸本昌己

第三事件原告

岡本邦雄外三名

第三事件、第四事件原告

尾崎秀夫

第三事件、第六事件原告

山本勝年

第三事件、第七事件原告

加藤奎三

第五事件原告

横山正継

右一〇名訴訟代理人弁護士

村上公一

乗鞍良彦

太田尚成

藤掛伸之

主文

一  第一事件及び第二事件原告らの請求をいずれも棄却する。

二1(一) 第三事件被告株式会社シーサイドパレスは第三事件原告加藤奎三に対し、別紙物件目録1記載の建物を明け渡せ。

(二) 同被告は同原告に対し、同目録1記載の不動産について、平成九年五月一四日売買を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

(三) 同不動産について同日成立した売買契約に基づく同原告の同被告に対する代金債務は金八五七万八〇〇〇円であることを確認する。

2(一) 第三事件被告所良靖及び同所邦子は第三事件原告岡本邦雄に対し、別紙物件目録2記載の建物を明け渡せ。

(二) 同被告らは同原告に対し、同目録2記載の不動産について、平成九年五月一五日売買を原因とする各共有持分移転登記手続をせよ。

(三) 同不動産について同日成立した売買契約に基づく同原告の同被告らに対する代金債務は金一四八九万三〇〇〇円であることを確認する。

3(一) 第三事件被告所良靖及び同三村志ようは第三事件原告岡本邦雄に対し、別紙物件目録3記載の建物を明け渡せ。

(二) 同被告らは同原告に対し、同目録3記載の不動産について、平成九年五月一五日売買を原因とする各共有持分移転登記手続をせよ。

(三) 同不動産について同日成立した売買契約に基づく同原告の同被告らに対する代金債務は金八〇七万五〇〇〇円であることを確認する。

4(一) 第三事件被告植野一志は第三事件原告平賀久生に対し、別紙物件目録7記載の建物を明け渡せ。

(二) 同被告は同原告に対し、同目録7記載の不動産について、平成九年五月四日売買を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

(三) 同不動産について同日成立した売買契約に基づく同原告の同被告に対する代金債務は金七七八万三〇〇〇円であることを確認する。

5(一) 第三事件被告若原二郎は第三事件原告納佳三に対し、別紙物件目録10記載の建物を明け渡せ。

(二) 同被告は同原告に対し、同目録10記載の不動産について、平成九年五月一八日売買を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

(三) 同不動産について同日成立した売買契約に基づく同原告の同被告に対する代金債務は金八二六万一〇〇〇円であることを確認する。

6(一) 第三事件被告株式会社南ビルは第三事件原告尾崎秀夫に対し、別紙物件目録11記載の建物を明け渡せ。

(二) 同被告は同原告に対し、同目録11記載の不動産について、平成九年五月五日売買を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

(三) 同不動産について同日成立した売買契約に基づく同原告の同被告に対する代金債務は金一八五五万八〇〇〇円であることを確認する。

7(一) 第三事件被告丹生光雄、同中西成忠及び同中西正典は、第三事件原告松山義明に対し、別紙物件目録12記載の建物を明け渡せ。

(二) 同被告らは同原告に対し、同目録12記載の不動産について、平成九年五月一四日売買を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

8(一) 第四事件被告は第四事件原告に対し、別紙物件目録13記載の建物を明け渡せ。

(二) 同被告は同原告に対し、同目録13記載の不動産について、平成九年五月三一日売買を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

(三) 同不動産について同日成立した売買契約に基づく同原告の同被告に対する代金債務は金八七〇万八〇〇〇円であることを確認する。

三1(一) 第三事件被告喜多村和子及び同喜多村啓介は、第三事件原告吉田武人から金八四〇万五〇〇〇円(不可分債権)の支払を受けるのと引換えに、同原告に対し、別紙物件目録4記載の不動産について、平成九年五月一四日売買を原因とする各共有持分移転登記手続をなし、かつ、同目録4記載の建物を明け渡せ。

(二) 同目録4記載の不動産について同日成立した売買契約に基づく同原告の同被告らに対する代金債務は金八四〇万五〇〇〇円であることを確認する。

2(一) 第三事件被告高野和夫は、第三事件原告納佳三から金一一一七万五〇〇〇円の支払を受けるのと引換えに、同原告に対し、別紙物件目録5記載の不動産について、平成九年五月一四日売買を原因とする所有権移転登記手続をなし、かつ、同目録5記載の建物を明け渡せ。

(二) 同目録5記載の不動産について同日成立した売買契約に基づく同原告の同被告に対する代金債務は金一一一七万五〇〇〇円であることを確認する。

3(一) 第三事件被告梅田重明及び同梅田素子は、第三事件原告山本勝年から金八五三万六〇〇〇円(不可分債権)の支払を受けるのと引換えに、同原告に対し、別紙物件目録6記載の不動産について、平成九年五月一五日売買を原因とする各共有持分移転登記手続をなし、かつ、同目録6記載の建物を明け渡せ。

(二) 同目録6記載の不動産について同日成立した売買契約に基づく同原告の同被告らに対する代金債務は金八五三万六〇〇〇円であることを確認する。

4(一) 第三事件被告小坂まさみ、同小坂直輝及び同小坂尚澄は、第三事件原告吉田武人から金九四七万七〇〇〇円(不可分債権)の支払を受けるのと引換えに、同原告に対し、別紙物件目録8記載の不動産について、平成九年五月一四日売買を原因とする各共有持分移転登記手続をなし、かつ、同目録8記載の建物を明け渡せ。

(二) 同目録8記載の不動産について同日成立した売買契約に基づく同原告の同被告らに対する代金債務は金九四七万七〇〇〇円であることを確認する。

5(一) 第三事件被告鶴田守人は、第三事件原告平賀久生から金八七五万一〇〇〇円の支払を受けるのと引換えに、同原告に対し、別紙物件目録9記載の不動産について、平成九年五月一四日売買を原因とする所有権移転登記手続をなし、かつ、同目録9記載の建物を明け渡せ。

(二) 同目録9記載の不動産について同日成立した売買契約に基づく同原告の同被告に対する代金債務は金八七五万一〇〇〇円であることを確認する。

6(一) 第五事件被告は、第五事件原告から金九一九万六〇〇〇円の支払を受けるのと引換えに、同原告に対し、別紙物件目録14記載の不動産について、平成九年五月一七日売買を原因とする所有権移転登記手続をなし、かつ、同目録14記載の建物を明け渡せ。

(二) 同目録14記載の不動産について同日成立した売買契約に基づく同原告の同被告に対する代金債務は金九一九万六〇〇〇円であることを確認する。

7(一) 第六事件被告は、第六事件原告から金八六二万二〇〇〇円の支払を受けるのと引換えに、同原告に対し、別紙物件目録15記載の不動産について、平成九年五月一四日売買を原因とする所有権移転登記手続をなし、かつ、同目録15記載の建物を明け渡せ。

(二) 同目録15記載の不動産について同日成立した売買契約に基づく同原告の同被告に対する代金債務は金八六二万二〇〇〇円であることを確認する。

8(一) 第七事件被告は、第七事件原告から金一八一八万九〇〇〇円の支払を受けるのと引換えに、同原告に対し、別紙物件目録16記載の不動産について、平成九年五月一四日売買を原因とする所有権移転登記手続きをなし、かつ、同目録16記載の建物を明け渡せ。

(二) 同目録16記載の不動産について同日成立した売買契約に基づく同原告の同被告に対する代金債務は金一八一八万九〇〇〇円であることを確認する。

四  第三事件原告吉田武人、同納佳三、同平賀久生、第三事件・第六事件原告山本勝年、第五事件原告及び第七事件原告のその余の請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は、参加によって生じた部分は補助参加人の負担とし、その余は第一事件原告・第三事件被告ら、第二事件原告・第三事件被告、第三事件被告ら及び第四ないし第七事件各被告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  第一及び第二事件

原告らと被告との間で、被告の管理組合臨時総会において平成九年一月一二日になされた別紙不動産目録二記載の建物に関する建替え決議が無効であることを確認する。

二  第三ないし第七事件

1  別紙売渡請求一覧表1ないし5の「被告」欄記載の各被告らは、同番号欄に対応する「原告」欄記載の各原告らに対し、同番号欄に対応する「物件」欄記載の各建物を、それぞれ明け渡せ。

2  別紙売渡請求一覧表1ないし5の「被告」欄記載の各被告らは、同番号欄に対応する「原告」欄記載の各原告らに対し、同番号欄に対応する「物件」欄記載の各不動産について、同番号欄に対応する「売渡請求書到達11」欄記載の日の売買を原因とする各所有権移転登記手続(被告らが共有者の場合は共有持分移転登記手続)をせよ。

3  別紙売渡請求一覧表1ないし5の「物件」欄記載の各不動産について、同番号欄に対応する「売渡請求書到達日」欄記載の日に成立した各売買契約に基づく同番号欄に対応する「原告」欄記載の各原告らの同番号欄に対応する「被告」欄記載の各被告らに対する代金債務は、同番号欄に対応する「金額」欄記載の各金額であることを、それぞれ確認する。

第二  事案の概要

本件は、別紙不動産目録記載の建物(以下「本件マンション」という。)が阪神・淡路大震災により損壊したため、第一及び第二事件被告(以下「被告管理組合」という。)の臨時総会において建物の区分所有等に関する法律(以下「法」という。)六二条一項の建替え決議が行われたところ、建替えに賛成しなかった区分所有者らである第一及び第二事件原告ら(以下、総称して「決議無効確認原告ら」という。)が右決議の無効確認を求め、他方、建替えに賛成した区分所有者である第三ないし第七事件の各原告ら(以下、総称して「売渡請求原告ら」という。)が、右各同事件の各被告ら(以下、総称して「売渡請求被告ら」という。なお、決議無効確認原告らはすべて売渡請求被告らに包含されている。)に対し、それぞれ法六三条四項に規定される各区分所有権及び敷地利用権の売渡を請求したことに基づき、①各区分所有建物(専有部分)の明渡、②各区分所有権及び敷地利用権の所有権(ないし共有持分)移転登記手続、並びに、③売渡請求原告らが売渡請求被告らに対して各売渡代金の確定を求めた事案である。

一  前提となる事実(証拠等を掲げた部分以外は、当事者間に明らかに争いがない。)

1(一)  被告管理組合は、別紙不動産目録記載の土地(以下「本件敷地」という。)及び建物(本件マンション)の管理を目的として設立された法三条に規定する管理組合であり、本件敷地の利用権及び本件マンションの区分所有権を有する者(以下、単に「本件マンションの区分所有者」という。)を組合員とする権利能力なき社団である。法三〇条に基づき本件マンションの区分所有者全員によって定められた「グランドパレス高羽管理組合規約」四四条には、組合員がその所有する住戸一戸につき各一個の議決権を有する旨が定められている。(乙四)

(二)  売渡請求原告らは、平成九年一月一二日当時、いずれも本件マンションの区分所有者であった。

(三)  売渡請求被告ら(決議無効確認原告らを含む。)は、右の当時、いずれも本件マンションの区分所有者であった。

(1) 売渡請求被告株式会社シーサイドパレスは、別紙物件目録1記載の区分所有権及び敷地利用権を有していた者であり、かつ、右物件の建物(専有部分)を占有する者である。

(2) 同所良靖及び同所邦子は、別紙物件目録2記載の区分所有権及び敷地利用権を共有していた者であり、かつ、右物件の建物(専有部分)を占有する者である。

(3) 同所良靖及び同三村志ようは、別紙物件目録3記載の区分所有権及び敷地利用権を共有していた者であり、かつ、右物件の建物(専有部分)を占有する者である。

(4) 同喜多村和子及び同喜多村啓介は、別紙物件目録4記載の区分所有権及び敷地利用権を共有していた者であり、かつ、右物件の建物(専有部分)を占有する者である。

(5) 同高野和夫は、別紙物件目録5記載の区分所有権及び敷地利用権を有していた者であり、かつ、右物件の建物(専有部分)を占有する者である。

(6) 同梅田重明及び同梅田素子は、別紙物件目録6記載の区分所有権及び敷地利用権を共有していた者であり、かつ、右物件の建物(専有部分)を専有する者である。

(7) 同植野一志は、別紙物件目録7記載の区分所有権及び敷地利用権を有していた者であり、かつ、右物件の建物(専有部分)を占有する者である。

(8) 同小坂まさみ、同小坂直樹及び同小坂尚澄は、別紙物件目録8記載の区分所有権及び敷地利用権を共有していた者であり、かつ、右物件の建物(専有部分)を占有する者である。

(9) 同鶴田守人は、別紙物件目録9記載の区分所有権及び敷地利用権を有していた者であり、かつ、右物件の建物(専有部分)を占有する者である。

(10) 同若原二郎は、別紙物件目録10記載の区分所有権及び敷地利用権を有していた者であり、かつ、右物件の建物(専有部分)を占有する者である。

(11) 同株式会社南ビルは、別紙物件目録11記載の区分所有権及び敷地利用権を有していた者であり、かつ、右物件の建物(専有部分)を占有する者である。

(12) 同丹生光雄、同中西成忠及び同中西正典は、別紙物件目録12記載の区分所有権及び敷地利用権を共有していた者であり、かつ、右物件の建物(専有部分)を占有する者である。

(13) 同小田欣一郎は、別紙物件目録13記載の区分所有権及び敷地利用権を有していた者であり、かつ、右物件の建物(専有部分)を占有する者である。

(14) 同宗行忠雄は、別紙物件目録14記載の区分所有権及び敷地利用権を有していた者であり、かつ、右物件の建物(専有部分)を占有する者である。

(15) 同藤井陽一郎は、別紙物件目録15記載の区分所有権及び敷地利用権を有していた者であり、かつ、右物件の建物(専有部分)を占有する者である。

(16) 同西原道雄は、別紙物件目録16記載の区分所有権及び敷地利用権を有していた者であり、かつ、右物件の建物(専有部分)を占有する者である。

(四)  別紙売渡請求一覧表1の番号①ないし③、⑦、⑩ないし⑫、同表2の番号⑬欄に対応する「物件」欄記載の各物件には、それぞれ同番号欄に対応する「担保権」欄記載の各担保権が設定されている。(乙二三の2、乙AないしCの各一、乙G一、乙JないしMの各一)

第三事件被告所良靖、同所邦子、同三村志よう補助参加人は、別紙物件目録2及び3記載の各区分所有権及び敷地利用権に、別紙担保権目録二1及び同目録三1記載の根抵当権(共同担保)を設定している者である。

2  本件マンションは、一号棟ないし三号棟と呼称される住戸棟及びパーキングスペースからなり、一号棟と三号棟の間にエントランス(玄関ホール)及びエレベーターホールがある。このエレベーターホール等は廊下で各棟に接続している。一号棟の南部分がAブロック、北部分がBブロック、二号棟がCブロック、三号棟の南部分がDブロック、北部分がEブロック、パーキングスペースがFブロックとなっているが、登記簿上は全体が一棟の建物として表示されている。右状況は別紙図面(一)及び(二)記載のとおりである。(乙七、一一、証人山本一成)

3  本件マンションは、平成七年一月一七日に発生した阪神・淡路大震災で被災して損壊し、その復興が課題となったが、平成九年一月一二日に開催された被告管理組合の臨時総会において法六二条一項に規定する集会(以下「本件集会」という。)が行われ、右集会で、総議決権数一七八票のうち、売渡請求原告らを含む一四八票の賛成により、本件マンションを取り壊し、本件敷地に新たに主たる使用目的を同一とする建物を建築する旨の決議(以下「本件建替え決議」という。)がなされた。

売渡請求被告らは、本件集会において本件建替え決議に係る本件マンション建替えの議案に賛成しなかった。

4  本件集会を招集した被告管理組合理事長は別紙売渡請求一覧表1ないし5の「被告」欄記載の各売渡請求被告らに対し、同番号欄に対応する「催告書到達日」欄記載の日に、それぞれ本件建替え決議の内容によって建替えに参加するか否かを回答するよう催告したが、右被告らはいずれも参加するとの回答をしなかった。

5  別紙売渡請求一覧表1ないし5の「原告」欄記載の各売渡請求原告らは、同番号欄に対応する「被告」欄記載の各売渡請求被告らに対し、同番号欄に対応する「売渡請求書到達日」欄記載の日に、同番号欄に対応する「物件」欄記載の不動産を時価で売り渡すよう、それぞれ意思表示をした(以下「本件売渡請求」という。)。

二  当事者の主張

1  第一事件及び第二事件について

(一) 決議無効確認原告らの主張

(1) 費用の過分性の欠如

法六二条一項にいう「建物がその効用を維持し、又は回復するのに過分の費用を要するに至ったとき」(費用の過分性)に該当するかどうかは「建物の価額その他の事情」に照らして判断されるものであるが、右の「建物の価額」が建替え決議当時の建物の市場価値をいうとしても、実際にその価額を正しく算出することは困難であり、また、何をもって「その他の事情」というべきかは、はなはだ不明確である。そこで、費用の過分性の要件は、「建替え費用」と「建物の効用を維持、回復するために必要な補修費用」とを比較して判断されるべきところ、後者が前者の五〇パーセントを超える場合にはこれに該当するというべきである。

本件マンションの建替えに要する費用(再調達原価)は三五億九六七〇万八五〇〇円であるのに対し、同マンションの効用を維持、回復するために必要な共用部分の補修費用は、本件建替え決議に先立って被告管理組合が作成した平成八年九月一五日付け「建替え議案書」に補修案として示された程度の内容の補修を行うとすれば五億一五〇〇万円であり、これに躯体補修工事、仕上修復工事、各所リフレッシュ工事の追加工事を行った場合でも六億二一四〇万円である。また、専有部分の補修費用は二億二〇〇〇万円である。

そうすると、同マンションの効用を維持、回復するために必要な共用部分及び専有部分の補修費用は多く見積っても、建替え費用の五〇パーセントに満たないから、本件建替え決議は費用の過分性の要件を満たさない。

(2) 本件マンションの滅失割合

区分所有建物の滅失割合が0.5以下の場合は、小規模滅失として法六一条一項による滅失した共用部分及び自己の専有部分の復旧が認められるに過ぎず、法六二条一項に基づく建替え決議を行うことは許されないと解すべきであるところ、本件マンションの滅失割合は、別紙計算書一のとおり、0.43ないし0.48である。したがって、本件マンションは法六二条一項に基づく建替え決議を行う要件を満たしていない。

なお、被告管理組合は、躯体の耐用年数を四〇年、設備の耐用年数を一五年として滅失割合を計算しているが、その根拠は不明確である(ちなみに、本件マンションも被災時で既に築後一五年を越えているが、設備に関しても全く何の不都合もなく利用されていた。)。税制等で利用され、現実にも適合する躯体の耐用年数六〇年、設備の耐用年数二〇年の数値を用いるべきである。

(3) 建替え決議の対象

建替え決議は、建築学的に見た一棟の建物ごとに行うべきであり、登記簿上一棟の建物とされている場合であっても、構造的な一棟ごとに建替え決議を行うべきである。本件マンションは、渡り廊下やエキスパンションで結ばれてはいるものの、構造的にはAないしEブロックの五棟に分れているから、各棟ごとに建替えか補修かが判断されるべきであり、殆ど損傷を受けていない一号棟及び二号棟についてまで本件建替え決議の対象とするのは不合理である。

(4) 本件建替え決議の手続的瑕疵

本件集会において、被告管理組合は事前に本件建替え決議の前提となるべき「費用の過分性」に関する判断資料の提供を十分に行わず、本件マンションの復旧費用について、過大で算出根拠が薄弱な金額を示すなど誤った情報を提供したため、右集会参加者は錯誤に陥り、真意に基づかずに本件建替え決議に賛成する意思表示をしたものである。

したがって、本件建替え決議は無効である。

(二) 被告管理組合の主張

(1) 費用の過分性について

① 法六二条一項の「建物に価額その他の事情に照らし、建物がその効用を維持し、又は回復するのに過分の費用を要するに至ったとき」にいう「建物の価額」とは、決議当時の建物全体の取引時価(現況市場価値による価格。ただし、敷地利用権の価額は含まれない。)と解すべきであり、費用の過分性の要件該当性は右の意味での建物の価額と建物の効用の維持・回復に要する費用とを比較して判断すべきである。

また、右規定の「その他の事情」として、補修工事によって得られる効果を考慮すべきである。なぜなら、損壊した建物を補修する場合、完全に損壊前の状態に復するのではなく、建物の品質・機能・美観等の過不足が必ず生じるものであり、また、「建物がその効用を維持し、又は回復する」費用には現時点で要する復旧費用等のみならず将来の維持管理費用を含むと解されるので、補修費用が建物価額に相応しているかどうかは、補修費用と補修工事によって得られる効果との相関関係を考慮しなければ判定し得ないからである。

さらに、以下の四つの理由により、建物に物理的効用の相当な減退があり、補修・復旧に通常の維持管理費用を超えた多額の出費を要するときは、原則として費用の過分性の要件が満たされたものと評価し、建替え決議が費用の過分性の要件に明白に反してなされたという特段の事情がないかぎりは、その決議は有効と解されるべきである。

第一に、「過分の費用」かどうかは社会通念により決まるものであり、社会通念とは一般人にとって受容可能な客観的な判断を意味するので、当該建物の区分所有者の認識判断の内容とは一応区別されるが、現実に建替えをめぐる当該状況に立たされた多くの区分所有者によりなされた判断は、経験則上、「社会通念」と一致する場合が多いと考えられる。

第二に、何を「過分の費用」とするかは建物にどの程度の効用を期待するかという相対的な価値判断にかかわる問題であり、第一次的には区分所有者が判断すべきものであるから、区分所有者の圧倒的多数がその要件を満たすものと判断した場合、その判断は、事後的判断に当たって可及的に尊重されることが妥当である。

第三に、法が大規模滅失のみならず小規模滅失においても建替えの選択がありうることを規定し、復興方針選択について価値中立的な態度を示して区分所有者の自治的・裁量的判断を尊重していることからすれば、復興方針選択に関する区分所有者の判断は、特段の不合理がないかぎりは極力尊重する方向で取り扱うのが妥当である。

第四に、「過分の費用」の概念が抽象的であり、曖昧さや多義性に起因する判断リスクを建替え決議に賛成した多数の区分所有者に負担させるとすれば、調査検討及び集団的討議を経て慎重に建替えを決議した場合においても建替え決議の効力が覆され、予測可能性と法的安定性を害するだけでなく、以後は補修の方向で意見がまとまることも事実上困難となり、マンションはスラム化して建替え反対者を含めた関係者全員にとって不幸な事態が生じる。そのため、区分所有者が「過分の費用」と判断したことについて応分の相当性・合理性が確保されているかぎり、区分所有者の決議を尊重し、軽々にこれを無効とするべきではない。

② これを本件についてみると、本件マンションの建替え費用(再調達原価)は三五億九一七二万円(設計監理費を含む一平方メートル当たり単価一八万円)である。

また、本件マンションの共用部分の補修費用については、概ね次の三案が考えられる。

ア 躯体補強工事で、柱の損傷部分に五一本、梁の損傷部分に二四本のコンクリート打替を行い、傾斜のある本件マンション一号棟南側壁の二箇所に補強壁(バットレス)を新設し、同棟の基礎ベース打替を一箇所行う。躯体補修工事で、柱及び梁の損傷部分にエポキシ樹脂を充填し、非耐力壁一五六一メートルについてコンクリート打替を行う。仕上補修工事ないしリフレッシュ工事でアルミサッシ及びスチールサッシを部分的に取り替え、床、壁、天井及び手摺の全面塗装を行う。設備工事で空調設備二一〇台を撤去、再取付をする。外構工事で駐輪場部分三〇〇平方メートルのアスファルトを補修する。仮説工事については全面足場架とし、工事期間中も居住者が居住を継続できるよう防音、防塵等のための養生設備を設置する。

右の案(以下「A案」という。)によると、補修費用は合計一四億二二〇〇万円となる。

イ 躯体補強工事で柱の損傷部分に一八本のコンクリート打替を行い、その他の柱及び梁の損傷部分は樹脂モルタルの充填等による補修工事のみとし、一号棟南側壁及び基礎はA案と同様に補強する。躯体補修工事で柱の損傷部分一五〇平方メートル及び梁の損傷部分八一平方メートルに樹脂モルタルを充填し、柱のひび割れ部分にのみエポキシ樹脂充填し、非耐力壁一四四九メートルについてもコンクリート打替ではなく樹脂モルタル充填による補修とする。仕上補修工事ないしリフレッシュ工事でアルミサッシ及びスチールサッシを部分的に取り替え、塗装も損傷部分のみとする。A案に示された設備工事の空調設備の撤去、再取付は行わず、駐車場部分の外構工事は二〇平方メートルについてのみ行う。仮設工事は、塗装を損傷部分のみとすることから部分足場架とし、工事期間中に居住者が全員退去することを前提とした工法を用いる。

右の案(以下「B案」という。)によると、補修費用は合計約八億六四六〇万円となる。

ウ 躯体補強工事で、柱及び梁の損傷部分はB案と同様の補強を行うものとする。また、一号棟南側壁については、建物の外側に補強壁を設置することで建物の外観に変更を生じ、当該部分の区分所有者から不満が出る可能性があるため、地中二箇所に補強杭を新設するものとし、一号棟基礎修復は、目視により破壊が確認できる部分の反対側にも損傷が予想されることから二箇所の基礎ベース打替を行う。躯体補修工事で、柱及び梁の損傷部分並びに非耐力壁の補修はB案と同様に行い、損傷が予想される二号棟の耐力壁(戸境壁)には壁ボードの撤去とクラック・エポキシ樹脂注入を行う。仕上補修工事ないしリフレッシュ工事は、区分所有者間の公平を図るため、アルミサッシ及びスチールサッシの全面取替を行うこととし、また、建物の美観を損わないよう全面塗装を行う。設備工事及び外構工事はB案と同様とし、仮設工事は全面足場架を行う外はB案と同様に行う。

右の案(以下「C案」という。)によると、補修費用は合計約一〇億三三〇〇万円となる。

エ なお、被告管理組合が作成した平成八年九月一五日付け「建替え議案書」に記載された共用部分補修案(見積額合計一〇億六九五五万円)は、C案に若干の修正を加えたものであり、C案との主な相違点は、設備工事においてC案に掲げられていなかったエレベーター二基の取替工事を追加したことである。

そして、本件マンションの「建物の価額」、すなわち、被災建物価格は、被災前建物価格から復旧費用を控除した金額を震災修正率(被災建物を復旧した場合にあっても市場性が劣ることによる修正)で補正した金額として計算され、本件マンションの補修についてAないしC各案の復旧費用(専有部分の補修費および杭の補修費を含まない金額)により被災建物価格を計算すると、次のとおりとなる(別紙計算書二参照)。

・A案の場合 復旧費用

一四億二二〇〇万円

被災建物価格一億〇四〇七万円

・B案の場合 復旧費用

八億六四六〇万円

被災建物価格五億七七八六万円

・C案の場合 復旧費用

一〇億三三〇〇万円

被災建物価格四億三四七二万円

よって、いずれの案を採っても、復旧費用が被災建物価格を大幅に上回り、費用の過分性を優に肯認することができる。

しかも、建物の「利用価値の維持・回復に要する費用」には、現在の支出額だけではなく、将来見込まれる支出や、専有部分の効用を維持、回復するために要する費用も含まれるところ、右の計算にはこれらの費用が含まれていない。また、AないしC各案のいずれの補修見積金額にも杭の補修費は含まれていないが、平成七年六月ころに基礎杭の掘削調査を行った結果、一箇所の基礎ベースの剪断クラック及び二本の杭の頭部の損傷(うち一本については以深部にクラックが発生している可能性がある。)がそれぞれ確認され、平成八年六月ころの杭の調査でも八本のうち五本に部分的なクラックの疑いが指摘されたことから、基礎杭の補修が必要になる可能性も否定できない。

(2) 本件マンションの滅失割合について

法六一条一項ただし書において小規模滅失に関する規定中に建替え決議に関する定めがあることから、滅失割合と法六二条一項の費用の過分性の有無とは無関係であり、建物の効用の維持、回復が各区分所有者にとって「過分な費用」負担となる状況が生じれば、滅失割合が0.5以下の小規模滅失の場合であっても建替えの要件を満たすものと解すべきである。

仮に、小規模滅失の場合には建替え決議が許されないとしても、AないしC案の各場合における被災前建物価格、被災建物価格及び滅失割合は別紙計算書二のとおりであり、いずれの案を採用しても滅失割合は優に0.5を超え、本件マンションは小規模滅失には該当しない。

また、鉄骨鉄筋コンクリート造又は鉄筋コンクリート造の建物であっても、現実の耐用年数は三〇〜四〇年程度に止まるのであるから、躯体の耐用年数は四〇年、設備の耐用年数は一五年として現価率を算定すべきであり、これによって計算すると、決議無効確認原告らが主張する再調達原価及び復旧費用の数値を採用しても本件マンションの滅失割合は0.5を上回るから小規模滅失とはいえない。

(3) 建替え決議の対象について

法に基づく復興手続の単位は「一棟の建物」であるところ、「一棟の建物」かどうか(建物の個数)は、建物の構造上の独立性・一体性の有無及び機能上(効用上・取引上)の独立性・一体性の有無によって判断されるべきであり、右の判断は復興事業であるか日常管理であるかを問わず、同一の基準によって行われるのが相当である。また、登記簿上一棟の建物として表示されている場合は、登記簿上の表示に基づき、管理組合の管理をはじめとするマンションの対内的・対外的な法的関係が形成され、区分所有者の意識としても一体感を持つのであるから、特段の不自然・不合理がないかぎりは、これを尊重するのが妥当である。

本件マンションについは、一号棟及び三号棟はそれぞれ二つの部位から構成されていると見ることができ、さらには住戸棟ではないパーキングスペース(Fブロック)も構造上分離された一つの部位となる。その結果、本件マンションをAないしFブロックの六つの部位から成り立っているものと見ることが可能である。

しかし、本件マンションのブロック間においては建物下部の基礎が共通になっており、構造上、完全に独立とはいえない。また、本件マンションの中央部分(Bブロック北)にはエントランス及びエレベーターホールがあり、これに接合する形で一号棟、二号棟及び三号棟がそれぞれ南、西及び北方向へ向かって延びており、右エントランス及びエレベーターは右各棟に共通であって、あるブロックの住民がエレベーターを使用するために他のブロックを往来するなど、各棟は互いに機能上の依存性がある。さらに、受水槽、電機室、集会室、自転車置場などの附属施設は、どの棟に付設されているかを問わず共同で利用されているうえ、電気、電話、ガス、水道などの配線・配管の類も横断的に施されていることから、各棟は相互に有機的な依存性がある。したがって、本件マンションの各棟は機能上の不可分一体性があると解するのが相当である。加えて、修繕費の徴収等の本件マンションの管理は、従来から全体を一体のものとしてなされてきたのであり、登記簿上もこれらの全体が一棟の建物として登記されている。

これらの事実を総合すれば、本件マンションは全体として一棟の建物と解するのが自然であり、建替えか補修(復旧)かについても本件マンション全体で判断すべきである。

(4) 本件建替え決議の手続的瑕疵について

① 本件マンションでは補修に向けた取組みが先行し、建物の被災度や補修費用について真摯に調査検討がされており、区分所有者集会等で少数意見や反対意見の表明が封殺された事実はなく、現に、何度も開催された区分所有者集会においては、建替えに反対していた者は多くの発言を行っている。

また、本訴提起後も、本件建替え決議に賛成した者は、右決議の当時に錯誤に陥っていたとは毫も考えていない。

したがって、本件建替え決議は錯誤に基づく賛成の意思表示によって成立したものではない。

② 本件建替え決議のような表決(合議体の構成員が、その審議の対象である一定の問題について賛否の意思を表明する行為)という団体法的行為については、その法的安定性が尊重されるべきであるから、民法の規定も限定的に適用されるべきである。

仮に、表決に意思表示の規定の適用があるとしても、動機の錯誤は表意者が当該意思表示の内容としてこれを相手方に表示した場合でない限り法律行為の要素とはならず、表意者が無効を主張する意思がないのに第三者において錯誤に基づく意思表示の無効を主張することは許されないのであるから、決議無効確認原告らが本件建替え決議の錯誤無効を主張することはできないというべきである。

(三) 決議無効確認原告らの再主張(費用の過分性について)

(1) 被告管理組合は、本件マンションの共用部分の補修案としてAないしCの三案を検討した旨主張するところ、右補修案についてみると、躯体の強度に影響のある補修工事は柱の補強(補修)工事のみであり、しかも、補強(補修)すべき柱は本件マンション全体の柱(三〇〇本以上)のうちわずか一八本に過ぎず、一部の棟の特定部分に集中している。右各補修案において見積もられている非耐力壁の補修等は躯体の強度には直接の影響がない。

また、右各補修案の見積もりが行われたのは、震災直後の工事単価が異常に高騰している時期であり、その一年後には工事単価が大幅に下落したのであるから、右各補修案で示された補修費用は過大である。

(2) 阪神・淡路大震災調査報告編集委員会が作成した「阪神・淡路大震災調査報告」によれば、震災による本件マンションの被災程度は「中破」に過ぎず、建物全体としては鉛直耐力、水平耐力ともに著しい耐力の低下はなかった。

(3) 被告管理組合は、本件マンションについて基礎杭補修の必要性を指摘するが、同マンションは地盤が強固な地域にあり、太さ最大一八〇センチメートルの手掘深礎杭(地盤の支持層まで地中に穴を手掘りし、現場でコンクリートを流し込んで設置したもの)が使用されているので、杭の地中部分に損傷があるとは考えにくく、クラックが存在するとしてもごく軽微なものと考えられるから、補修の必要はないというべきである。

また、エレベーターの取替及び建物の傾きの補正についても必要性が認められない。

(4) 以上からすると、本件マンションについて補修に過分の費用を要するものとは考えられない。

2  第三事件ないし第七事件について

(一) 売渡請求原告らの主張

法六三条四項に基づく売渡請求を行う場合における区分所有権及び敷地利用権の「時価」とは、建替え決議の有効な成立を前提とした区分所有権及び敷地利用権の時価をいうものであり、建替えが実現した場合における再築建物及び敷地利用権の価格から建替えに要する経費を控除した金額を基準として算定され、経済的には、再築建物の敷地とすることを予定した敷地の更地価格から現存建物の取壊しに要する費用を控除した金額に合致する。

右の方法により、別紙売渡請求一覧表1ないし5の各「物件」欄記載の各区分所有権及び敷地利用権の時価を算定すると、同番号欄に対応する「金額」欄記載の各金額となる。

(二) 売渡請求被告ら及び第三事件被告所良靖、同所邦子、同三村志よう補助参加人の主張

(1) 本件建替え決議は、「費用の過分性」という法律上の要件を欠く違法、無効のものであるから、売渡請求原告らの本件売渡請求も効力を生じない。

(2) 仮に、本件売渡請求が理由あるものとしても、法六三条四項に規定する「時価」は、建物の損壊や老朽の程度とは無関係に通常の効用を持った状態における時価をいうものと解すべきであり、本件マンションにおいては、被災前の区分所有権及び敷地利用権の時価をいうと解すべきである。

また、仮に、本件売渡請求における区分所有権及び敷地利用権の時価を売渡請求原告らの主張する方法で算定するとしても、売渡請求被告らの住居の存在する棟の損傷程度を、各棟ごとに個別具体的に調査、検討して算定すべきであり、右原告らの主張する金額はいずれも不当である。

(3) 売渡請求原告らは、本件売渡請求に際して具体的な代金額を提示せず、また、現在に至るまで代金を提供していないから、本件売渡請求は無効である。

仮に、本件売渡請求が有効であったとしても、長期間にわたって代金が提供されないから、売渡請求被告らは、それぞれ売渡請求をした各売渡請求原告に対し、平成一一年三月一日の本件口頭弁論期日において、取消しないし解除の意思表示をした。

また、売渡請求原告らは、本件建替え決議の日から二年を経過しても本件マンションの取壊し工事に着手しないから、売渡請求被告らはそれぞれ売渡請求をした各売渡請求原告に対し、右期日において、法六三条六項に基づく再売渡請求の意思表示をした。

(4) 法六三条四項に基づく売渡請求による区分所有権及び敷地利用権の所有移転登記手続並びに建物(専有部分)の明渡は時価相当額の代金支払と同時履行関係にあるから、売渡請求被告らは、各対応する売渡請求原告らから時価相当額の代金の支払があるまでは、所有権移転登記手続及び明渡を行う必要はない。

(三) 売渡請求原告らの再主張

(1) 法六三条四項所定の売渡請求がなされた場合、その当時の客観的な時価をもって売買が成立するのであって、右売渡請求をするに当たって具体的代金額を提示する必要はなく、右代金額について当事者間に争いがあるときは、最終的には訴訟によってこれを確定することになるのである。したがって、具体的な代金額の提示や代金の提供のないことは、本件売渡請求の効力とは全く無関係である。

(2) 売渡請求被告らは、本件売渡請求によって成立した契約の取消しないし解除の主張をするが、契約の取消し又は解除が認められるためには取消事由又は解除事由が必要であり、本件においてはそのような事由は全く見当たらないから、右主張は何ら根拠がない。

(3) 本件マンションは現在に至っても取壊し工事が着手されていないが、法六三条六項の再売渡請求は、建物の取壊しの工事に着手しなかったことにつき正当な理由があるときは認められない(同項但書)。本件の場合、建物の取壊しに着手できないのは、売渡請求権の行使を受けた受渡請求被告らが建物(専有部分)を明け渡さないからであり、同項所定の正当な理由がある。

(4) 本件売渡請求の対象物件の一部には、民法五七七条所定の担保権の登記がなされているから、所有権移転登記手続及び明渡と代金提供とは同時履行の関係にない。

三  争点

1  本件マンションは、「建物の価額その他の事情に照らし、建物がその効用を維持し、又は回復するのに過分の費用を要するに至った」(法六二条一項)といえるか。

2  本件建替え決議に手続的瑕疵はあるか。

3  法六三条四項に基づく売渡請求権を行使した場合の区分所有権及び敷地利用権の「時価」

4  本件売渡請求の効力

5  売渡請求被告らによる再売渡請求は認められるか。

6  売渡請求に基づく区分所有権及び敷地利用権の所有権移転登記手続並びに建物(専有部分)の明渡と、時価相当額の代金支払は同時履行の関係にあるか。

第三  当裁判所の判断

一  争いのない事実、証拠(甲一、二、七、九、一〇、一三、一九、二一、二二、二五、二七、乙一ないし一八、二〇、二二、二四、二七ないし三四、三六ないし三八、五一、五二、五四、乙A、B、EないしK、MないしPの各二及び三の各1、2、乙Cの二及び四の各1、2、三、乙Dの二ないし四の各1、2、乙Lの二ないし五の各1、2、証人山本一成、同佐古誠司、同宮腰宗雄)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。

1  本件マンションの状況

(一) 本件敷地は、神戸市灘区の市街地の北東部で「阪急六甲駅」の北東方約1.4キロメートルに位置し、市街化区域、第一種中高層住居専用地域にある。六甲山系から続く南向きの傾斜地にあり、北方には林地が迫り、西方は急傾斜となって石屋川に向かい、東側には階段式のマンションが建設されており、南方は学校敷地である。付近は高台の閑静な住宅地域であり、日照、通風等は良好であるが、街路は比較的急峻な坂道が多い。

本件マンションは、昭和五五年八月二三日に建築された鉄骨鉄筋コンクリート造、一部鉄筋コンクリート造、陸屋根塔屋二階付一二階建、建築面積2371.83平方メートル、延床面積1万5794.43平方メートルの建物であり、住戸が一七七戸、店舗が一戸となっている。

本件マンションの住戸部分は別紙図面(一)及び(二)記載のとおり、三つの棟、五つのブロックに別れているが、建物下部の基礎は各棟ごとに共通である。本件マンションの中央部分(Bブロック北)にはエントランス及びエレベーターホールがあり、ここから一号棟、二号棟及び三号棟が、それぞれ南、西及び北方向へ延び、各棟は廊下によって中央のエレベーターホールに接続している。

(二) 平成七年一月一七日、阪神・淡路大震災により本件マンションは被害を受けた。なお、同月一八日、本件マンションの八三二号室で火災が発生したが、同室のみで消火された。

2  本件建替え決議に至る経緯

(一) 被告管理組合は、右震災直後からライフラインの復旧、危険箇所の応急処置を行う一方、本件マンションの被災程度の診断のため、建物の被災度調査および構造診断の専門家である一級建築士伊奈信一が主宰する伊奈建築設計事務所(以下「伊奈設計」という。)に本件マンションの構造耐力の調査などを依頼した。伊奈設計は、平成七年一月二八日に現地下見調査、同年二月一七日および一八日に現地調査、同月二二日に材料試験をそれぞれ行い、同年四月付け「六甲グランドパレス高羽耐震診断報告書」(以下「伊奈報告書」という。)を被告管理組合に提出し、同月一日には本件マンションの住民説明会で本件マンションの建物構造診断調査結果について報告説明した。

(二) 伊奈報告書は、右震災により被害を受けた本件マンションを補強及び補修して継続使用するために、構造耐力を評価するのに必要な現況調査、試験を行い、耐震診断及び補強、補修の検討を行って、その結果を報告したものであった。

(1) 伊奈設計は、本件マンションにつき、外観調査、コンクリートの強度の調査、コンクリートの中性化深さ試験及び構造強度の調査を実施した。

① 外観調査の結果によれば、建物の外部において柱及び壁に数多くひび割れが見られ、スラブにもひび割れが見られた。外壁の損傷は建物のほぼ全面に見られたが、一号棟東側及び三号棟西側の壁が特に損傷の度合いが大きく、一号棟南側の壁が多少変形していると認められた。

また、三号棟のD及びEブロックについては、四階及び八階の廊下とバルコニー側の柱が数箇所破壊し、エキスパンションジョイント部分において、衝突によるひび割れ、金物の破損が見られた。屋上については、エキスパンションジョイント部分で建物同士の衝突によりパラペットが破損し、庇にもひび割れがあり、一部スラブにもひび割れが見られた。

さらに、不同沈下測定の結果、全体的に各階とも同じような変形をしており、変形角は南北方向で最大約二六二分の一程度、東西方向では最大約二七四分の一程度となっていた。

柱の傾斜測定の結果は、南北方向の傾斜はAないしCブロックで南方向に最大約一八一分の一、D及びEブロックで北方向に最大約二五〇分の一、東西方向の傾斜は、A、C及びDブロックで東方向に最大約二六〇分の一、B及びEブロックで西方向に最大約二六〇分の一となっていた(ただし、不同沈下測定及び傾斜測定の結果には施工誤差が含まれていると思われた。)。

② コンクリートの強度調査(内外の壁からコンクリートコアを一五箇所採取し、圧縮強度試験を行う方法による。)の結果によれば、平均圧縮強度は設計基準強度を上回り、合格率は87.9パーセントでBランクであった。

③ コンクリートの中性化深さ試験の結果によれば、屋外、室内、室外ともに理論値を上回っており、中性化は多少進行しているようであった。

④ 構造強度の調査は、現況建物について耐震診断計算をし、次に補強を行った時の耐震診断計算をして現況建物との耐力を比較する方法で行った結果、柱の破壊された部分にコンクリート打直し等の補強を施すことによって現況建物よりも構造強度が一〜二倍程度上昇すると考えられた。

(2) 右各調査をふまえ、伊奈設計は、被害を受けた部材について、次のような補修方法を提案した。

① 破壊している部材について

ア 三号棟の四階及び八階の柱の破壊部分は、梁下に上層支持用サーポートを設置して補修する柱のコンクリートを解体し、変形している主筋の一部を切断して新たに配筋し直すとともに、HOOPを新たに巻き直して継手部分は溶接し、配筋後、早強コンクリートを打設する。

イ 二号棟バルコニーの受梁と三号棟廊下とのエキスパンションジョイント部の片持梁の破壊部分は、コンクリートを解体して鉄筋を補修矯正し、コンクリートを打ち直す。また、三号棟廊下と片持梁との間隔を大きくする。

ウ バルコニー及び廊下の壁の大きく破壊している部分は、コンクリートをはつり解体し、鉄筋を組み直してコンクリートを打ち直す。

② コンクリートの剥離、破損している部材について

柱、梁及び壁のコンクリート剥離、破損部分は、表面のコンクリートをはつり取り、ひび割れ部分には樹脂等を圧入し、ひび割れを手直しした上で、コンクリート部分を無収縮モルタル等により補修する。

③ コンクリートのひび割れ部分について

柱、梁及び壁のひび割れ部分に樹脂等を圧入して手直しをする。

(3) また、伊奈設計が提案した補強方法は次のとおりである。

① 駐車場の梁の下に壁を増設し、上部の梁を支持する。

② 一号棟の南側にバットレス(壁を補強するために壁から直角に突出して取り付ける短い補強壁)を設ける。

③ 廊下側の腰壁により柱の破壊に大きな影響を及ぼしているので、その部分にはスリットを設ける。

④ 火災部分(八三二号室)の天井スラブに、樹脂注入等の手当と変形増大防止のための鉄板による補強を行う。

(三) 一方、被告管理組合は、平成七年二月二〇日、本件マンションの管理会社である株式会社東急コミュニティーを通じて本件マンションの元施工業者である東急建設株式会社(以下「東急建設」という。)に対し、本件マンションの共用部分の補修案及びその見積もりの提示を依頼し、東急建設は、同年三月八日から一〇日まで、延べ一〇数名の技術者を現場に派遣して躯体コンクリートの目視及び打診による調査を行ったが、その結果は次のとおりであった。

(1) 柱の損傷度がⅣ(大きなひび割れが多数生じ、コンクリートの剥落も激しく、鉄筋がかなり露出しているもの。)ないしⅤ(鉄筋が曲がり、内部コンクリートも崩れ落ち、一見して高さ方向の変形が生じていることがわかるもの。沈下や傾斜が見られるのが特色。鉄筋の破断が生じている場合もある。)の部位は、一号棟の一階に二箇所、二階に二箇所、三階に三箇所、八階に二箇所あり、二号棟の三階に一箇所、四階に三箇所あり、三号棟の四階に一三箇所、五階に七箇所、六階に三箇所、七階に六箇所、八階に六箇所あり、三階の駐車場に二箇所あり、合計五〇箇所であった。

(2) 梁の損傷度がⅣないしⅤの部位を部屋ごとにみると、一号棟の一階に四箇所(駐車場部分に一箇所を含む。)、二階に三箇所、三階に四箇所、四階に三箇所、五階に二箇所、六階に二箇所、七階に二箇所、八階に二箇所あり、合計二二箇所であった。また、三号棟とエレベーターホールの間のエキスパンションジョイント部分は、四階から一〇階にわたって損傷度ⅣないしⅤの被害が認められた。

(3) 雑壁の損傷度がⅣないしⅤの部位は、一号棟ないし一〇階住戸部分のほぼ全面、一一階及び一二階住戸部分の半分にあり、二号棟三階に四箇所、四階住戸部分のほぼ全面、五階に五箇所、六階に六箇所、七階に四箇所、八階に四箇所、一〇階に二箇所あり、三号棟の四階ないし六階住戸部分のほぼ全面、七階住戸部分のほぼ半分、八階ないし一一階住戸部分のほぼ全面に存在した。

(4) また、二号棟からエレベーターホールに接続する廊下には、五階から一二階にわたって損傷度ⅣないしⅤの破損が見られた。

(四) 東急建設は、右の調査に基づき平成七年四月一九日付け見積書を作成して被告管理組合に提出した。右見積書に示された補修案がA案(補修費用の見積総額一四億二二〇〇万円)であり、内訳は概ね次のとおりであった。ただし、A案には、専有部分の復旧工事は含まれず、共用部分の中でも住戸間の戸境壁や専有部分床の補修、復旧工事は含まれず、設備関係については共用部分の外観目視のみの調査により見積もったため、埋設部分および隠蔽部分等の破損、不良箇所の復旧費は含まれていない。なお、東急建設においては、まず社印のない見積書を提出し、施主と工事の増減等について折衝して工事金額を決定した後に社印を押印した見積書を正式なものとして提出することになっていたため、右見積書には社印が押印されていない。

(1) 躯体補強工事

柱の損傷部分五一箇所、梁の損傷部分二四箇所についてコンクリート打替を行い、傾斜のある本件マンション1号棟南側壁の二箇所にバットレスを新設し、同棟の基礎ベース打替を一箇所行う。

(2) 躯体補修工事

柱及び梁の損傷部分にエポキシ樹脂を充填ないし注入し、非耐力壁一五六一メートルについてコンクリート打替を行う。

(3) 仕上補修工事

エキスパンションジョイント部のコンクリート破損部分について床をカットしてジョイントを広げる等の補修をし、アルミサッシ及びスチールサッシを部分的に取り替え、床、壁、天井、手摺の全面塗装を行う。玄関ロビー、エレベーターホール、集会室及び三号棟屋上の損傷を修復する。

(4) 仮設工事

床、壁及び天井に全面塗装を施すため仮設足場は全面足場架とし、工事期間中も居住を継続できるよう防音、防塵等の養生設備を設置する。

(5) 設備工事

給排水設備、電気設備の破損を補修するとともに、空調設備二一〇台の撤去、再取付を行う。

(6) 外構工事

駐輪場部分三〇〇平方メートルのアスファルトを全面的に補修する。

(五) A案による補修費用は一戸当たり約八〇〇万円となり、これに各専有部分の補修費用を加えると各区分所有者の補修費用負担額は一〇〇〇万円以上となるため、被告管理組合は東急建設に対し、徹底的にコストダウンをするとともに、伊奈報告書の内容に依拠した補修計画案の提示および補修金額の見積りを依頼した。東急建設は右依頼に応じて、伊奈設計とも協議の上、平成七年四月二七日ころ、B案として補修費用見積総額約八億六四六〇万円の見積書を被告管理組合に提示した。A案とB案の主な相違点は次のとおりである。

(1) 躯体補強工事について

A案が柱の損傷部分のコンクリート打替を五一箇所としていたのに対し、B案はコンクリート打替は一八箇所とし、残り三三箇所は樹脂モルタル充填を行うものとした。この点、東急建設は柱について五一箇所のコンクリート打替が必要との判断であったのに対し、伊奈報告書は打替の必要があるのはそのうちの一七本で、残り三三本については樹脂モルタルの充填等により補修が可能としていた。そこで、東急建設と伊奈設計とが再度検討したところ、打替える必要があるのは一八本としたものである。

また、A案では梁の損傷部分二四箇所の補修についてコンクリート打替としていたのに対し、B案では樹脂モルタル充填に改めた。この点も、東急建設が二四本の梁についてコンクリート打替が必要と判断したのに対し、伊奈報告書は梁の損傷部分は樹脂モルタルの充填等で補修可能との見解であったため、B案では伊奈報告書の見解を採用したものである。

一号棟南側壁をバットレスにより補強することはA案と同様である。

(2) 躯体補修工事について

A案が柱及び梁の損傷部分にエポキシ樹脂充填ないし注入を行うこととしていたのに対し、B案では樹脂モルタルの充填を行うこととした。これは、エポキシ樹脂が強力な注入剤である反面、高価であることから、コストダウンの要請の基づき、より安価な樹脂モルタルに変更したものである。なお、柱の損傷について、一部、B案でもエポキシ樹脂の注入とされているが、これは、技術上、エポキシ樹脂の注入でなければ補修が困難な小さなひび割れであることによるものである。

また、A案では非耐力壁のコンクリート打替が一五六一メートルとなっているのに対し、B案ではコンクリート打替一一二メートル、樹脂モルタル充填補修一四四九メートルとなっている。これは、非耐力壁は建物の構造面に関係がなく、安全性の点からも思い切ったコストダウンが可能であるので、打替を最小限に絞ったものである。この部分の変更は、コストダウンの効果が最も大きい部分であった。

(3) 仕上補修工事について、A案が床、壁、天井、手摺の全面塗装を行うとしていたのに対し、B案では外壁の部分塗装、床の部分補修とした。

(4) 仮設工事について、A案では床、壁、天井の全面塗装を行うことから全面足場架であるのに対し、B案では部分補修であることから足場も部分足場架とし、工事期間中に全員退去を前提としているため、養生設備もA案より四〇〇〇万円以上安価となった。

(5) 設備工事で、A案が空調設備二一〇台の撤去、再取付を行うとしていたのに対し、B案では、各戸の保有台数には差がありA案では区分所有者間に不公平が生じるとの被告管理組合側の判断から削除された。

(6) 外構工事について、A案では駐輪場のアスファルト三〇〇平方メートルの補修とされているのに対し、B案ではコストダウンのため二〇平方メートルとされた。

(六) 右のような補修案の検討を通じて、本件マンションの区分所有者らの間に、補修をするにしても相当の費用負担となり得ることが認識され、本件マンションの復興を補修の方法のみではなく、建替えの方法でも検討しようという考えを持つ者も現れた。そこで、被告管理組合は、平成七年四月二九日に本件マンションの復興に関する説明集会を開催し、株式会社東急コミュニティーの担当者を通じて補修と建替えの利害得失について区分所有者らに説明したところ、区分所有者らの間で建替え案を具体的に検討するよう要望があったことから、補修と建替えを総合的に検討するため「復興協力委員会」を発足させた。

(七) 復興協力委員会は東急建設に対し、A案及びB案について細部からの再検討を依頼したところ、東急建設は、右二案を比較検討し、コストダウンを図りつつ、区分所有者間の公平や本件マンションの外観にも配慮した補修案として補修費用見積総額一〇億三三〇〇万円のC案を提示した。C案と他の二案との異同及び根拠は、概ね次のとおりである。

(1) 躯体補強工事について

① 柱及び梁の損傷については、B案と同様である。

② 一号棟南側補強について、A案及びB案ではバットレス新設が二箇所となっているのに対し、C案では杭基礎新設が二箇所となっている。東急建設、伊奈設計ともに傾斜のある一号棟南側の壁を補強するためには補強壁(バットレス)を用いる工法が妥当であるとしていたが、建物の外側に補強壁を設置すると、建物の外観に変更を加えるのみならず補強壁に面した部屋の区分所有者から不満が生じる可能性があるため、外観を変えずに補修する方法として、補強壁の代わりに地中で補強の杭を打つ方法を採用することとしたものである。

③ 一号棟基礎修復のうち、基礎ベース打替についてA案及びB案では一箇所となっているのに対し、C案では二箇所となっている。東急建設は、当初、目視によって破壊が確認できる一箇所のみを補修の対象としていたが、その反対側にも同様の損傷が予想されるとの伊奈設計の指摘を受けて、C案においてはその部分も補修対象に加えたものである。

(2) 躯体補修工事について

① 柱及び梁の損傷については、B案と同様である。

② 耐力壁(戸境壁)について

C案では、A案及びB案にはないクラック・エポキシ樹脂注入と、その前提としての壁ボード撤去の各工事が見積もられている。戸境壁とは、各区分所有建物の境にある壁で、構造上耐力壁として機能するものであるが、A案B案が作成された時点では、戸境壁について調査が及ばなかったので見積もられていなかった。その後、被告管理組合で検討した結果、地震の揺れの方向との関係で耐力壁として有効に機能した二号棟の戸境壁には損傷が発生している可能性があると判断されたため、予想の数値としてではあるがC案に計上されたものである。

③ 室内床コンクリートについて

C案では損傷の可能性のある一部の床コンクリート部分について、カーペットと畳を捲って調査した上、損傷部分にエポキシ樹脂を注入するという工事を予想して見積もりに計上された。

④ 非耐力壁については、B案と同様である。

(3) 仕上補修工事について

① アルミサッシ及びスチールサッシの修復について

A案及びB案では部分取替とされていたが、共用部分の費用に計上されるこれらの補修箇所について、取替えの部分とそうでない部分があると区分所有者間で不公平になるという被告管理組合側の判断で、C案では全数取り替えるものとして見積もられた。

② 塗装について

B案では外壁、床の部分補修とされていたが、これでは仕上りが建物の外観上ミミズがはったような状態になり、美観を損なうため、C案ではA案と同様、全面塗装とされた。

(4) 仮設工事について

C案では床等の全面塗装を行うこととしたため、A案と同様、足場全面架設が必要となったが、その他の仮設工事はB案とほぼ同じである。

(5) 設備工事及び外構工事については、B案と同様である。

(八) 他方、復興協力委員会は、建替え案について、神戸市がボランティアを募って組織した「神戸市分譲マンション復興支援グループ」に、概略設計と事業費の概算を提示してもらうなどした。

その後、被告管理組合が平成七年六月四日に開催した臨時総会では、「復興協力委員会」が理事会の正式な諮問機関として復興方針について調査検討を行うことが承認された。

同月二〇日、被告管理組合が業者に依頼して本件マンションの基礎と杭の調査を実施したところ、基礎部二箇所の掘削調査の結果、基礎及び地中梁の破断及並びに抗頭部の圧壊が確認され、抗の非破壊検査をした結果でも検査した二本の抗のうち一本について以深部に損傷(クラック)が発生している可能性があると報告された。

同年七月二日、説明集会が開催され、補修及び建替えの両案について調査検討の成果が報告されるとともに、建物の基礎と杭頭に損傷があること、杭以深部における損傷の可能性があることも併せて報告された。右の説明の後に実施されたアンケート調査では、全住戸一七八戸のうち、一七七戸から回答があり、その結果は、建替えに賛同が一二九戸(全住戸の72.5パーセント)、補修に賛同が三二戸(全住戸の一八パーセント)、保留が一六戸(全住戸の九パーセント)、未回答一戸(全住戸の0.6パーセント)であった。

(九) 右アンケート調査結果をふまえ、復興協力委員会は建替え方針が相当である旨答申し、平成七年八月六日開催の説明会において右答申内容を本件マンションの区分所有者らに説明した。右答申に基づき、同月二〇日、被告管理組合が臨時総会を開催し、「建替え方針」を付議したところ、委任状による代理出席を含めた出席者一六七名のうち一三九名(全住戸の78.1パーセント)の賛成で右方針が承認可決された。

右臨時総会では、建替え方針決議を実行すべく「建替事業推進委員会」を設置し、「復興協力委員会」を解消すること、神戸市分譲マンション復興支援グループの代表であった高田昇教授を主宰する「COM計画研究所」にコンサルタント活動を依頼すること、設計事務所及び事業協力者の選定はCOM計画研究所と建替事業推進委員会に一任することが決議された。

被告管理組合は、事業協力者として西松建設株式会社(以下「西松建設」という。)を選定し、具体的な建替え案作成の作業に入ったが、西松建設がコンサルタント業務も行いたいと要望したため、COM計画研究所がコンサルタント活動から離れた。西松建設は、平成八年一月下旬まで区分所有者に対する個別ヒアリングを続けたが、建替えのための事業計画案が予定どおりに作成されないまま、同年三月二三日が近づいた。同日までに復旧決議又は建替え決議が成立しなければ、被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法五条に基づく買取請求権の行使が可能となるため、これを行使する区分所有者が現われた場合、混乱の発生が予想された。このような状況で、建替事業推進委員会は事業推進体制を根本的に見直し、住民合意形成に主眼をおいた新たな事業コンサルティング体制を確立するという方針の下に新たな体制を発足させることとし、西松建設は本件マンションの復興業務から撤退した。

(一〇) 平成八年三月一〇日、建替事業推進委員会は区分所有者に対する説明集会を開き、同月二〇日、被告管理組合が臨時総会を開催したところ、四分の三以上の多数で、新たに建替事業推進委員会を発足させて新体制へ移行することが決定された。新たな委員会では、区分所有者の求めている方向を把握するため、復興事業に対する意識調査を実施したところ、回答提出者一七二名のうち、建替え賛成一二九名、補修賛成一二名、情報不足とする者が三一名という結果となった。

右委員会及び被告管理組合の理事会は、本件マンション復興のための新たなコンサルタント業務を、神戸弁護士会所属の戎正晴弁護士をリーダーとするコンサルタントグループ(以下「コンサルタントグループ」という。)に依頼することを決定し、コンサルタントグループは、戎弁護士の外、井口寛司弁護士、野崎隆一、佐古誠司、川口憲一各一級建築士の五名で構成された。

同年四月一四日及び同月二八日に、建替事業推進委員会は、住民集会を開催し、新たな事業推進体制について説明を行った。

右委員会はコンサルタントグループに対し、前記方針決議と区分所有者の意識調査の結果を踏まえて建替え議案を作成することを求めたが、コンサルタントグループは、復興方針の選択に関する合意形成のためには、個々の区分所有者が建替えと補修のそれぞれの案の利害得失を正確に理解することが必要であり、そのためには建替え案のみならず補修案についても十分な検討が必要である旨を指摘した。そのため、建替え議案作成とともに補修案の再検討も行うこととなり、建替え案については天藤建築設計事務所の天藤久雄と野崎が共同して基本設計を始め、具体案を作成することとなった。

同年五月一二日、臨時総会が開催され、コンサルタントグループによってコンサルティング活動がなされること、コンサルタント報酬の支払のために修繕積立金の取崩しを行うこと及び建替事業推進委員会を解消して復興事業の検討は理事会の業務の一環として行うことが承認された。また、合意形成のための措置として被告管理組合理事の定員を三名増員し、補修案に賛成する者三名を理事に追加選任することも承認された。

被告管理組合はコンサルタントグループに対し、復興事業及び手続過程の法的管理、事業手法の法的検討、合意形成に関するアドバイス、補助事業に関する業務、事業資金の算定、補修方針の検討を委託した。

3  コンサルタントグループによる補修案の再検討

(一) コンサルタントグループは、どの程度のレベルまで補修をするかについて、新耐震基準を満たすような補修工事は経済的にみて現実的でないとして、従前の建物と同一のレベルの強度の復旧することを想定した補修案を検討することとした。

(二) コンサルタントグループは被告管理組合に対し、本件マンションに関する補修決議を行う場合の議決要件を明らかにするために本件マンションの滅失度が建物価格の二分の一を超えるものかどうかの鑑定が必要であり、建替え事業費の試算等を行うために土地価格の鑑定が必要であるとの申入れを行い、これを受けて、被告管理組合は株式会社山陽不動産鑑定研究所に右各鑑定を依頼した。右研究所は被告管理組合に対し、平成八年七月八日、本件敷地の更地価格に関する「鑑定評価書」及び本件マンションの滅失割合に関する「区分所有建物滅失判定報告書」(以下「滅失判定報告書」という。)を提出した。

右鑑定評価書は、本件敷地の更地価格を、同年五月二二日時点において一七億一三四一万八〇〇〇円(一平方メートル当たり一九万九〇〇〇円)と評価していた。

また、滅失判定報告書は、震災被災マンションの建物の滅失部分が建物価格の二分の一を超えているかどうかの判断基準について、日本不動産鑑定協会不動産カウンセラー部会が神戸市等の依頼を受けて平成八年二月に作成した「区分所有法六一条による1/2滅失判定手法について」と題するマニュアルに依拠しつつ、本件マンションの滅失割合は、杭補修を行わないものとして、AないしC案のいずれによっても「建物価格の二分の一を超える滅失」と判定されるとの結論を示した。すなわち、右マニュアルによれば、本件マンションは鉄骨鉄筋コンクリート造一二階建の構造であり、立地的には市街地に存在し、ランク的には中級程度と考えられることから、建築基準単価は一平方メートル当たり一七万五〇〇〇円であり、これに設計監理費率三パーセントを加えた一平方メートル当たり一八万円が建築単価となるので、本件マンションの再調達原価は、右建築単価に延床面積一万九九五四平方メートルを乗じた三五億九一七二万円となる。また、鉄骨鉄筋コンクリート造一二階建の建物の躯体と設備の構成割合は八〇パーセント対二〇パーセント、耐用年数は躯体四〇年、設備一五年であり、右マニュアル所定の減価修正を施して算出すると、本件マンションの現価率は0.43となり、被災前建物価格は再調達原価に現価率を乗じた一五億四四四四万円となる。さらに、被災前建物価格から復旧費用(補修費用)を減じ、震災による市場性の減退を考慮して被災建物価格を算出し、(1−被災建物価格/被災前建物価格)の算式で滅失割合を求めたところ、A案の補修費用によれば一〇〇パーセント、B案の補修費用によれば九一パーセント、C案の補修費用によれば九九パーセントになったというものである。

(三) コンサルタントグループが既に東急建設により提示されていたAないしC案を検討したところ、A案は過分な補修も見積もられている上、構造補強の考え方の点において伊奈報告書との整合性に問題があり、B案では、一号棟南側壁への補強壁設置によって建物の外観が変更され、アルミサッシ及びスチールサッシの取替えについて区分所有者間に不均衡が生じ、塗装の仕上げは外観上ミミズがはったような状態になり、仕上工事の美観上の不公平感から区分所有者の合意形成の困難さが予測された。そこで、コンサルタントグループは、ある程度全面的に補修・塗装を行うことによって美観上も全体として一体感を持った建物になることを企図したC案の方向性が納得できるものと考え、これをベースに補修案を見直すことにした。

(四) 本件マンション一号棟の傾きの是正についてはAないしC案のいずれにも含まれていなかったが、一号棟の住民から傾きを是正すべきだとの強い要望があり、コンサルタントグループが株式会社安部工業所に対し、ジャッキアップ工事による傾きの補修費用の見積もりを依頼したところ、平成八年五月二〇日付けで同社から工事費約一億六〇〇〇万円とする見積書が提出された。

(五) また、補修の場合の事業費の試算にあたり、基礎杭等地下部分の損傷程度を把握するため、コンサルタントグループは、被告管理組合の理事会及び総会の決議を得て、株式会社東京ソイルリサーチに対し、杭基礎の健全性を杭の非破壊試験法を用いて評価するための調査(杭頭部の側面にドリルで穴を開け、その穴をハンマー等で打撃してパルス波を発生させ、これをパイル・インテグリティ・テスターを用いて測定する調査)を依頼した。

同社は、平成八年六月七日、本件マンションの現場計測を行い、合計八本の杭(杭径一五〇〇ミリメートルが四本、同一六〇〇ミリメートルが三本、同一八〇〇ミリメートルが一本)につき右調査を実施して、その結果を記載した「六甲グランドパレス高羽・杭の健全性調査報告書」を被告管理組合に提出した。右報告書によれば、各杭とも杭体の全断面に及ぶようなクラックはないが、調査した八本の杭のうち六本に部分的なクラックが存在している疑いがあるとされた。各杭ともにフーチングとの結合状態は良いと判断された。

(六) さらに、コンサルタントグループは、基礎部分を掘り返して、直接、杭の状態を調査するためにはどの程度の費用を要するかを検討するため、株式会社大栄に対し、基礎調査掘削工事の見積書の提出を依頼した。同社は、右杭基礎の健全性調査の対象とされた八本の杭のうちの一本についての掘削工事費用を合計七八七万四三五〇円とする見積書を被告管理組合宛てに提出した。

(七) なお、本件マンションのエレベーター管理会社であった三菱電気ビルテクノサービス株式会社は、平成八年五月一五日に同年度の定期検査を実施した結果、第一号エレベーター三階乗場三方枠変形大のため、建築基準法令の基準を満たしておらず、第一、第二号エレベーター各昇降路三階部分の亀裂が大きく、状況としては乗場から亀裂部分を通して昇降路内が見えるほどで非常に危険な状態であり、行政庁に対し「異常なし」とは報告できかねること、建物の傾きに伴いエレベーター昇降路も前側および左側に倒れており、これによって各階乗場とエレベーターのカゴとの係合裕度が小さくなったため、走行時急停止、閉じ込め故障の状態になる可能性もあり、同社が責任を負いかねる状況であること等を、同年六月一〇日付けで被告管理組合に通知した。

(八) コンサルタントグループは、より精密な補修案を作成するためには、改めて現地を調査する必要があると判断し、現地調査を実施した。

(九) 以上の結果、コンサルタントグループは、C案に微調整を加えて、補修費用の見積総額を一〇億六九五五万円とする補修案を作成した。コンサルタントグループがC案に加えた変更部分は次のとおりである。

(1) 躯体補修工事

樹脂モルタル充填および補修につき、軽微な充填補修箇所を追加したため(非耐力壁、クラックコンクリート剥離補修について樹脂モルタル充填および補修が一五二九メートルに増加。)、C案よりも一三〇万円の増額となった。

(2) 仕上補修工事

防水修復のち廊下・その他、共用部床・壁・天井全面塗装(いずれもA案と同一仕様)につき、A案の単価を参考に、軒先のメタリック系吹付タイル、アゲ裏のアクリル系リシン吹付替、外壁のアクリル系リシン吹付替、廊下床およびバルコニーのウレタン樹脂塗床撤去部分・同ウレタン樹脂塗床については、コンサルタントグループの指示による単価で設定し直した結果、C案よりも合計六〇〇万円の増額となった。

(3) 設備工事

エレベーター二基の取替工事を行うこととして、C案よりも合計三〇〇〇万円の増額となったが、この点が費用的に最も大きな変更であった。コンサルタントグループが調査した時点で、エレベーターシャフト(エレベーターが上下する縦の四角い筒)及びレールが傾いているとの調査結果が出され、シャフト部分の傾きを是正するよりは、レールとともにエレベーターの機械部分一式を取替える方が経済的であったことから追加された。

(4) 外構工事

駐輪場の床陥没及び土間補修その他につき、A案の仕様とし、その他二号棟足元廻りの法面保護、コンクリートの亀裂補修、急傾斜地の法面保護工事を追加したため、C案よりも七一八万一〇〇〇円の増額となった。

(一〇) コンサルタントグループは、C案で見積もられた各工事の価格をその時点においても変更する必要がないことを東急建設に確認した上で、当該価格に基づいて補修費用を積算した。

(一一) コンサルタントグループは、平成八年七月五日から同月一四日までの間、法人又は日程の調整がつかなかった者を除く合計一四九戸の区分所有者らと直接面接し、復興方針の希望を確認する作業を行った。その際、コンサルタントグループは右区分所有者らに対し、補修も技術的には十分可能であること及び建替えと補修において予想される各戸の負担額を説明し、希望する復興方針とその理由を確認したところ、建替え希望が一一二戸、補修希望が二五戸、どちらでもよいが一二戸という結果であった。そこで、コンサルタントグループは、「建替え議案書」の提出により区分所有者の意見を問うことが相当であると判断し、同月中旬ころに建替え案及び補修案をまとめ、同月下旬ころに「建替え議案書」案を作成し、理事会の了承を得て、同年八月四日開催された住民集会で区分所有者らに対してその内容を説明した。

4  本件建替え決議の成立

(一) 被告管理組合は、平成八年九月一五日、本件マンションの建替えを議題とする臨時総会を開催した。

(二) 右総会の議案書には、審議事項として「建替え計画承認の件」及び「事業体制及び事業手法承認の件」が記載され、説明事項として「区分所有法が規定する建替えへのプロセス」、「建替えの実体的要件(費用の過分性)」、「決議事項」、「議決権割合及び議決権行使方法」、「資金計画」及び「補修案の検討」の各項目が説明、記載されていた。

右「建替え計画承認の件」には、「(1)再建建物の設計の概要」、「(2)建物の取壊し及び再建建物の建築に要する費用の概算額」、「(3)(2)の費用の分担に関する事項」及び「(4)再建建物の区分所有権の帰属に関する事項」の各項目が設けられ、その中で、再建建物は鉄骨鉄筋コンクリート造+鉄筋コンクリート造地上十二階建、延床面積1万6241.49平方メートル、総戸数一八二戸とする前提であること、公費解体を行う場合の事業費は合計三六億五八七九万九〇〇〇円(住居専有面積一平方メートル当たりの負担額二五万七四〇〇円)となり、私費解体を行う場合の事業費は合計三九億三六七九万九〇〇〇円(住居専有面積一平方メートル当たりの負担額二七万七〇〇〇円)となること等が記載されていた。

また、「補修案の検討」の部分には、①基本的な補修方針は、構造躯体は震災前の強度(旧耐震基準)を前提とし、仕上げは生活上支障ないものとすること、②a補修案作成の前提は伊奈報告書の案により、東急建設の補修案を参考にすること、b各戸内のスラブ、戸境壁(耐力壁)の修復は調査不足のため、補修案の予想数量に留めること、c雑壁(非耐力壁)の修復は、コンクリート打ち直しを必要最小限に留め、無収縮モルタルによる修復とし、専有部分および設備配管等への工事影響を小さくすること、d設備修復工事は、躯体取り合いに伴う工事を主とすること、e杭については調査済みであるが、的確な補修を行うにはさらに詳細な調査が必要であり、今回の補修費用の見積りには算入しないこと、③補修工事の範囲、④損傷度分類の基準、⑤損傷箇所平面図、⑥共用部分と専有部分の工事範囲、⑦補修計画図、⑧各部位の補修工法等が順次詳細に説明され(伊奈報告書の資料も添付)、コンサルタントグループがC案に若干の修正を加えた前記3(九)の補修案(以下「議案書案」という。)の共用部分補修工事費(見積額合計金一〇億六九五五万円)が記載されていた。

なお、右議案書には、コンサルタントグループの依頼により福山大学教授工学博士南宏一が作成した本件マンションの補修に関する意見書も添付されており、復旧計画案を合理的なものとするためには建物の被災度を十分に調査し、それに基づく強度解析を行い、その被災度に応じた復旧手法を確定してから復旧費用の積算を行うべきであること、本件マンションの杭について行われた非破壊試験法は十分ではなく、少なくとも一本についてひび割れの状況を確認することが必要であること等が記載されていた。

(三) 平成八年九月一五日午後一時から八時までの間、神戸市御影公会堂大ホールで前記臨時総会が開催され、投票者総数一七二名のうち、賛成一四〇名、反対二六名、白票六票で、区分所有者総数の一七八名の五分の四を超える賛成が得られず、本件マンションの建替え決議は不成立となり、コンサルタントグループの活動は一応終了した。

(四) しかし、右臨時総会後、議事録作成のために再度投票を整理したところ、二票の未開票の賛成票があり、また、右臨時総会の二日後に、総会当日には投票せずに退席した組合員から賛成の議決権行使書が理事長宛てに送付されてきたことが判明し、右の事情を考慮すれば、建替え賛成が一四三名となっていた可能性が認められた。さらに、その後、理事会が本件マンションの区分所有者らに対して実施したアンケート調査の結果では、再度建替え決議のための総会を開催するよう求める旨の意見が多数を占めた。

(五) そこで、被告管理組合は、右議案書に再検討を加え、事業費の試算を見直した建替え議案書を作成した。

(六) 被告管理組合理事長は、平成八年一二月二六日付けで本件マンションの建替え事業承認の件を議題とする臨時総会の招集通知書、出欠票、委任状、議決権行使書及び建替え議案書を組合員全員に送付して、本件集会を招集した。

右建替え議案書には審議事項及び説明事項として同年九月一五日付け建替え議案書とほぼ同様の記載がなされていたが、全壊の建替え議案書と異なり、「補修案の検討」の項目がなく、「建物の取壊し及び再建建物の建築に関する費用の概算額」の項目において再建の事業費を合計三八億〇三〇一万九〇〇〇円(住居専有面積一平方メートル当たり二六万七六〇〇円)とする試算が記載されていた(再建建物の仕様及び費用等は同じであるが、優良建築物等の整備事業に係る補助金の額を減額して試算した結果、前回より事業費が増額となっている。)。

(七) 平成九年一月一二日午後二時から七時までの間、神戸市御影公会堂大ホールで臨時総会が開催され、出席組合員数九四名、議決権行使書を提出した組合員数六三名、代理人による議決権行使を行う組合員数四名であり、成立要件の充足が確認された。建替え議案について、午後四時まで被告管理組合の当時の理事らによる説明が建替え議案書に基づいて順次なされ、説明終了後、一時間以上にわたって質疑応答が行われた。質疑の中には本件建替え議案に反対する立場からの発言も多数あった。午後五時五五分から投票が開始され、投票者総数一七五名のうち、賛成一四八名、反対二一名、白票六票で、本件建替え議決が成立した。

売渡請求原告らはいずれも本件建替え決議に賛成した。決議無効確認原告らのうち、丹生光雄は本件集会に欠席し、その余の右原告らは本件建替え決議に反対した。また、売渡請求被告である小田欣一郎、藤井陽一郎及び西原道雄も本件建替え決議に反対し、宗行忠雄は白票を投じた。

5  本件建替え決議成立後の経過

(一) 本件集会を招集した被告管理組合理事長は売渡請求被告らに対し、法六三条一項に基づき、別紙売渡請求一覧表1ないし5の同番号欄に対応する「催告書到達日」欄記載の日に、それぞれ本件建替え決議の内容によって建替えに参加するか否かを回答するよう催告したが、右各被告らはいずれも参加するとの回答をしなかった。

売渡請求原告らは、別紙売渡請求一覧表1ないし5の同番号欄に対応する売渡請求被告らに対し、法六三条四項に基づき、同番号欄に対応する各「売渡請求書到達日」欄記載の日に、同番号欄に対応する各「物件」欄記載の不動産を時価で売渡すよう、それぞれ意思表示をした(なお、区分所有権及び敷地利用権が共有である場合、共有者のうちの複数の者に対して売渡請求の意思表示がなされた場合は、最も早く意思表示がなされた日を示す。)。

(二) 本件建替え決議後に発足したグランドパレス高羽再建準備組合は、本件建替え事業に参加しない本件マンションの区分所有者らが所有する区分所有権及び敷地利用権の時価を明らかにするため、株式会社尼信経営相談所に不動産鑑定を依頼し、同社は、平成九年七月一日付けで不動産鑑定評価書を右組合に提出した。

6  株式会社小野工建による調査及び補修案

(一) 第一及び第二事件提訴後の平成九年七月初めころ、決議無効確認原告鶴田守人は、全国マンション管理組合連合会事務局長谷垣千秋から紹介された株式会社小野工建(以下「小野工建」という。)に対し、本件マンションの補修工事に関する見積もりを依頼した。小野工建は大阪府摂津市に本店がある正社員数五〇名の株式会社であり、改修工事を専門に行う建築業者である。

右依頼を受けて、当時、小野工建の工務部長であった宮腰宗雄(以下「宮腰」という。)は、伊奈設計及び東急建設による調査結果、A案及びB案の見積明細、平成八年九月一五日付け建替え議案書等の資料を鶴田守人らから入手し、これらに基づいて平成九年七月から八月に本件マンションを四回訪れて目視を中心とする現地調査を行い、同年八月二〇日付けで共用部分補修工事費見積総額を六億二一四〇万円とする小野工建の見積書を提出した。

なお、宮腰は、補修による復興を正当と考える区分所有者らの団体である「被災地クラブ」の協賛会員でもある。

(二) 小野工建が提出した右見積書による補修案の補修項目は、概ね議案書案を基準として作成されたものであり、小野工建の補修案の内容は、大要、次のとおりであった。

(1) 躯体補強工事について

① 補修項目のうち、柱の損傷補強、一号棟南面補強(杭基礎新設)、駐車場の耐震壁補強及び一号棟基礎修復(基礎ベース補強、地中梁打替)は、議案書案の補修項目と同じである。

しかし、小野工建と議案書案では、柱の損傷補強のコンクリート打替方法が異なるほか、杭基礎新設においても議案書案では擁壁のコンクリートとはつり、架台を組み、重機を導入することを想定しているのに対し、小野工建の案では基礎の周囲を手で掘って工事を行うことを想定するなど、具体的な工事方法には差異があり、小野工建の補修案の工事単価はいずれも議案書案より安価となっている。

② 右の項目に加え、非耐力壁のコンクリート打替を行う部分を議案書案より増加させている。なお、小野工建の見積書には、議案書案にない廊下床下スラブ八〇平方メートル、エレベーターホール七箇所のコンクリート打替を追加した旨記載されているが、実際にはこれらの工事はいずれも議案書案に盛り込まれている。

③ 躯体補強工事費用の見積額は一億三二九〇万円となっている。

(2) 躯体補修工事について

柱、梁、床、耐力壁(戸境壁)、室内床及び非耐力壁等の補修項目及び工事内容は議案書案とほぼ同一であるが、工事単価はいずれも議案書案より安価であり、躯体補修工事費用の見積額は一億二〇〇〇万円である。

(3) 仕上げ工事について

エキスパンションジョイントカバー、アルミサッシ、スチールサッシ、防水等の補修項目は議案書案とほぼ同一であるが、アルミサッシ及びスチールサッシの取替箇所は、いずれも議案書案より少なくなっている。なお、小野工建の見積書には、議案書案にない外壁・天井裏・軒鼻塗装(全面仕上)及びシーリング打(全面打替)を追加した旨が記載されているが、これらはいずれも議案書案に盛り込まれている。仕上げ工事費用の見積額は二億一四七五万円となっている。

(4) 設備工事の補修項目は議案書案とほぼ同じであるが、議案書案に記載されているエレベーター二台の取替は、小野工建の補修案に見積もられていない。また、外構工事の補修項目はB案のそれとほぼ同様であって、議案書案とは異なっている。

(5) 小野工建の右見積書の末尾には、工事費が東急建設の見積もりより安価になる原因として、①東急建設の見積もりは、平成七年四月中旬の、交通事情が悪く、人件費も高騰した震災直後の混乱期における補修工事費が計上されており、平成九年の事情と異なること、②東急建設のようなゼネコンと小野工建のような改修専門業者では経費等において大きな差が出ることの二点が記載されている。

(三) 宮腰は、平成九年九月中にも何回か現地調査を行い、同月三〇日付けで見積総額を二億二〇〇〇万円とする専有部分補修工事の見積書を提出した。

(四) さらに、小野工建は、平成一〇年二月二〇日から同年四月三〇日まで、本件マンションの基礎杭の損傷度確認調査を行った。

小野工建は、株式会社東京ソイルリサーチが平成八年六月七日に非破壊試験法による調査を行った八本の杭のうち、地震時に最も厳しい応力状態にあったと推定される杭一本(中央のエレベーターホール付近にあるもの)を選択して、深礎工法を用いた掘削調査を実施した。

その結果、基礎と杭頭部を接続している部位に打設された捨てコンクリートに、杭外周面位置で基礎底面との間に数ミリの隙間があり、二〇〜三〇センチメートルの間隔でコンクリートの剥落を伴う縦方向のひび割れが確認された。コンクリートを取り除いて観察したところ、杭の主筋が約三センチメートル座屈していた。ひび割れ幅は二ミリメートルを超えていた。

また、基礎底から3.1〜3.3メートルの位置の杭表面に、阪神・淡路大震災により杭体に入ったと推察される一七〇センチメートルのひび割れが確認された。このひび割れは、杭の南面から斜めに五〇センチメートル程度入り、そこから水平に一二〇センチメートル程度伸びて終了している。ひび割れ幅は、最大で0.8〜0.9ミリメートル程度であった。

二  争点に対する判断

1  本件マンションは、「建物の価額その他の事情に照らし、建物がその効用を維持し、又は回復するのに過分の費用を要するに至った」(法六二条一項)といえるか。

(一) 法六二条は、区分所有建物の建替えについて、一定の要件を満たすときは、特別の多数決をもって建替えの決議をすることができる旨を規定している。そして、同条一項は、建替えの前提(客観)要件として、「老朽、損傷、一部の滅失等により、建物の価額その他の事情に照らし、建物の効用を維持又は回復するのに過分の費用を要するに至った」という要件を定めている。

右規定は、一定の客観的状況がある場合には、その建物の維持をやめて敷地の利用価値を回復することが合理的であるところ、建替えが区分所有者の多数による強制を含むものであることから、特別の多数決による建替えを可能としたものである。

したがって、「建物の価額その他の事情に照らし、建物がその効用を維持し、又は回復するのに過分の費用を要するに至ったとき」(費用の過分性)とは、区分所有建物が、物理的な効用の減退により建物の使用目的に応じた社会的経済的効用を果たすために社会通念上必要とされる性能を損ない、その効用を維持、回復するために必要な費用が相当な範囲を超えるに至ったことをいうものと解すべきである。

また、同条の文理及び趣旨からすれば、効用の維持、回復に必要な費用が相当な範囲を超えるに至ったか否かは、建替え決議当時における当該建物の時価と建物の維持、回復費用との比較のみによって判断するのではなく、建物の利用上の不具合その他建物の現状、土地の利用に関する四囲の状況等、建替えの要否の判断に際して社会通念上検討されるべき諸般の事情を総合考慮し、区分所有者が当該建物を維持することが合理的といえるかどうかによって判断すべきものと解される。

そして、建物の効用の維持、回復に必要な費用は、建物の使用目的や効用の要求水準という区分所有者の主観的な価値判断に左右されるものであるから、右費用の認定にあたって、建物がその効用を果たすべき性能水準についての多数の区分所有者らの主観的判断は可及的に尊重されるべきである。

(二) 本件についてみると、前記認定の事実によれば、本件建替え決議の当時、本件マンションの状態は、以下のとおりであったと認められる。

(1) 建物外部の柱、壁、スラブには数多くのひび割れがあり、建物のほぼ全面にわたって外壁の損傷が存在し、一号棟東側及び三号棟西側の壁が特に損傷の度合いが大きく、三号棟の四階及び八階の廊下とバルコニー側の柱が数箇所破損し、エキスパンションジョイント部分にひび割れ、金物の破損があった。また、不同沈下及び柱の傾斜測定の結果、各階とも同じような変形をしており、柱の傾斜は最大約一八一分の一ないし約二六〇分の一であった。

(2) 損傷が特に激しい部位(損傷度ⅣないしⅤ)は、柱については合計五〇箇所、梁については合計二二箇所、非耐力壁(雑壁)については各棟の住戸部分のほぼ半分ないし全面に存在した。また、二号棟の耐力壁(戸境壁)は、損傷が発生している可能性があり、二号棟からエレベーターホールに接続する廊下には五階から一二階にわたって破損が存在した。

(3) 建物の基礎部二箇所の掘削調査の結果、基礎及び地中梁の破断並びに杭頭部の圧壊が確認され、八本の杭について実施された非破壊検査の結果、調査した八本の杭のうち六本に部分的なクラックが存在している疑いが指摘された。

(4) 本件マンションの第一号エレベーターは、三階乗場三方枠変形大のため、建築基準法令の基準を満たしておらず、第一、第二号エレベーター各昇降路三階部分の亀裂が大きく、非常に危険な状態であった。

(三) 右の状態を前提に、本件マンションの効用を回復するために必要な費用について検討する。

(1) 前記認定の事実によれば、本件マンションを、最低限、当座の居住が可能な状態に回復するためには、差し当たり、①損傷した外壁、柱、梁、耐力・非耐力壁及び廊下の各部分を補修ないし補強、②塗装の剥落した床、壁等の部分塗装、③傾きのある一号棟南側壁の補強、④エレベーターの機械部分一式の取替えを中心とする補修工事を行うことが必要と考えられる。

また、柱、梁の補修、補強の方法は、安価な樹脂モルタルの充填によって修復可能な箇所については、強力だが高価なエポキシ樹脂ではなく、樹脂モルタルを使用し、非耐力壁の補修方法も、建物の構造強度に関係がないことから、コンクリート打替による補修を限定し、樹脂モルタル充填による補修で代替することが可能である。

したがって、本件マンションを当座の居住が可能な状態に回復することは、B案の仕様による補修工事に加え、エレベーター機械部分一式の取替工事を行うことで、一応達成されるものと考えられる。

(2) しかしながら、前記のとおり、本件マンションの「効用」は、最終的には、本件マンションにいかなる品質、機能を期待するかという区分所有者らの主観的判断によって決せられるものであるから、「効用を回復するために必要な費用」の検討にあたっては、本件マンションがどのような「効用」を備えるべきかについての多数の区分所有者らの主観的判断を可及的に尊重すべきである。

本件では、前記認定のとおり、①平成七年七月二日に開催された説明集会で、補修及び建替え双方の案の検討結果とともに、建物の基礎と杭頭に損傷があり、杭以深部に損傷の可能性があることが報告された後に、アンケート調査を実施したところ、全住戸の72.5パーセントが建替えに賛同するとの回答をしたこと、②平成八年五月ころ、一号棟の住民から、同棟の傾きについて、単なる補強ではなく傾きの是正を行うべきであるとの強い要望があったこと、③コンサルタントグループがB案を検討したが、建物の美観上の問題及び区分所有者間の不公平感から合意形成が困難であると予測され、C案の方向性を妥当と判断したこと、④同年九月一五日開催の被告管理組合臨時総会に先立って区分所有者らに交付された建替え議案書には、「補修案の検討」の項目で、議案書案の概要に加えて、構造躯体の補強は震災前の強度を前提とし、生活上支障ない程度の仕上げをする補修方針であること、非耐力壁の修復はコンクリート打直しを必要最小限に留め、無収縮モルタルによるものとすること、杭については調査済みであるが、的確な補修を行うにはさらに詳細な調査が必要であること等を記載した建替え議案書が区分所有者らに交付されたところ、右臨時総会では投票者総数一七二名のうち一四〇名が建替えに賛成したことが認められる。

これらの経緯からすると、本件建替え決議の時には、少なくとも四分の三を超える区分所有者らは、仮に、本件マンションの補修を行うとしても、当座の生活に支障がない状態に復することはもとより、建物の美観及び区分所有者間の公平が保たれること並びに構造上の安全性が保障されることを、回復されるべき建物の「効用」として重視していたものと認められる。

そして、仮に、本件マンションの補修を行う場合には、右多数者の意向に沿った補修方針が決定されるものと考えられる。

したがって、本件マンションの効用回復に必要な補修には、建物の美観及び区分所有者間の公平に配慮した議案書案の補修工事のほか、補修工事を行う前提として、未だ調査が行われていない基礎及び杭のいくつかの部分について掘削調査をし、安全性を確認することが不可欠と考えられ、右調査には多額の費用を要することが推認される(なお、株式会社東京ソイルリサーチが基礎及び杭部分の非破壊検査を行っているが、基礎及び杭の安全性確認は非破壊検査のみでは十分でないと考えられる。)。

そうすると、議案書案による補修工事の費用約一〇億六九五五万円に、杭及び基礎の調査費用を加えた金額が、本件マンションの効用回復に必要な補修費用であると認められる。しかも、右掘削調査の結果、基礎及び杭の安全性が問題となり、更に調査、補修費用が必要となる可能性も否定できない。

(四) そして、議案書案による補修費用(約一〇億六九五五万円)を前提として本件建替え決議当時における本件マンションの被災建物価格を算定すると、決議無効確認原告らが採用する現価率(0.56)及び震災修正率(0.1)に依拠しても約八億五〇〇〇万円となる。

(五) 以上の点に加え、本件マンションが、わが国に中高層の区分所有建物が建築され始めた時期以来経験したことのない大規模な地震によって被災し、急激かつ強大な外力のため、これまでの調査で発見されなかった損傷や部材の劣化が発生していて、それによって補修後に不具合が生じ、将来、調査及び修復のための費用が必要となる可能性も十分に考えられる。また、右のような事態が発生するかもしれないという区分所有者らの不安も理解可能である。さらに、一般に、被災建物であることを理由とする区分所有建物の取引的価値の低下も否定できないことを併せ考慮すると、本件マンションは「建物の価額その他の事情に照らし、建物がその効力を維持し、又は回復するのに過分の費用を要するに至った」ものと認めるのが相当である。

(六)(1) これに対し、決議無効確認原告らは、小野工建が提出した共用部分補修工事見積もり(甲七)に基づいて、本件マンションの効用を回復するために必要な補修費用は多くとも六億二一四〇万円に過ぎないと主張し、その理由として、右見積もりが作成された平成九年当時は、東急建設による見積もりが行われた震災直後に比べて工事単価が下落していること、小野工建のような改修専門業者は、大手建設会社より経営費が安価であることを指摘する。

しかし、小野工建の補修工事見積もりは、本訴提起後に決議無効確認原告の一人から依頼され、本件建替え決議がなされていることを認識していた宮腰が、伊奈設計及び東急建設による調査結果、A案及びB案の見積明細、平成八年九月一五日付け建替え議案書等を参考に、目視中心の調査をして作成したものである。したがって、右見積もりは、補修工事を担当することを前提として作成された東急建設のAないしC案の見積もりとは異なり、補修工事を担当する可能性のない状況下で作成されたものであること、見積もり作成の基準とした議案書案に関する宮腰の理解についても、議案書案に盛り込まれている補修項目を「議案書にない」旨記載するなど、不正確な点があることから、その見積金額に十分な信頼性を認めることはできない。

たしかに、平成九年当時の工事単価が震災直後に比べて下落した事実及び中小の改修専門業者は大手建設会社に比較して、通常、経費が安価となる事実は認めることができるが、工事単価の下落の程度は一割ないし一割五分に過ぎない(山本証言)のであり、小野工建の見積もりで、多くの補修項目について工事単価が東急建設の単価見積もりに依拠した議案書案の半額以下に設定されていることの合理性は認められない。却って、追加工事の要否、補修工事後のアフターサービス、トラブル解決の巧拙等を考慮すると、見積り金額の比較のみによって、改修専門業者の方が全体的な補修費用が安価になると断定することはできないというべきである。

また、前記のとおり、本件マンションの効用回復に必要な補修を行う前提として、基礎及び杭部分の調査が必要であるところ、小野工建の見積りには右調査費用は含まれていない。

よって、本件マンションの効用を回復するために必要な補修費用は多くとも六億二一四〇万円に過ぎないとの決議無効確認原告らの右主張は採用できない。

(2) また、決議無効確認原告らは、法六二条一項による建替え決議を行うためには区分所有建物の価格の0.5を超える部分が滅失したことを要し、滅失割合が0.5以下の小規模滅失については法六一条一項による復旧が認められるに過ぎず、法六二条一項に基づく建替えは許されないとの主張をする。

しかし、法六二条一項は、法六一条五項に規定する場合であることを要件としておらず、建物の滅失割合について何ら規定していないから、費用の過分性を建替え決議の実質的要件とし、建物の価格の二分の一を超える部分が滅失したか否かを問題としていない趣旨と解釈すべきである。

(3) さらに、決議無効確認原告らは、費用の過分性の要件は「建替え費用」と「建物の効用を維持、回復するために必要な補修費用」とを比較して、後者が前者の五〇パーセントを超えるかどうかで判断すべきであるとの主張をする。

しかし、前述のとおり、法六二条は、建物の社会的経済的効用を維持、又は回復するために必要な費用が建物の現在の価値、利用具合その他建物の現状、土地の利用に関する四囲の状況等に照らして相当な範囲を超えるに至った場合に建物維持の不合理性を認め、建替え決議を許容する趣旨であるから、費用の過分性の有無は、単に、建替え費用と補修費用の比較によって決せられるべきではなく、建替え要否の判断に際して通常検討されるべき諸般の事情を総合考慮して判断されるのが相当であり、このように解することが同条の明文にも合致する。

決議無効確認原告らの右主張は、アメリカ合衆国のいわゆる「五〇パーセントルール」を参考にして論じられたものであるが、同ルールは、同国の連邦緊急事態管理庁が公共的な建物の建替えないし復旧の補助を行う場合の基準を定めた規則中にある、建替えを行うか修復・補強を行うかの判断基準であって(甲六)、これを直ちにわが国の法六二条の解釈に適用すべき明確な根拠を見いだすことはできない。

(4) 決議無効確認原告らは、法六二条一項に基づく建替え決議の要件は、建築学的にみた一棟の建物ごとに判断されるべきであるところ、本件マンションは、構造的にはAないしEブロックという五つの部分に分れているから、各ブロックごとに建替えの要否を判断すべきであると主張する。

法六二条所定の建替えは、分離不可能な一棟の建物について区分所有関係の継続が著しく困難になった場合に、その関係を整理する措置として設けられたものであるから、建替え決議の要件は物理的に一体不可分な一棟の建物ごとに判断されるのが相当であるところ、前記認定のとおり、本件マンションの住戸部分は三つの棟、五つのブロックに分れているものの、建物下部の基礎は各棟ごとに共通であり、各棟は廊下によって中央のエレベーターホールに接合し、外壁もほぼ連続していて、いずれかの棟のみを取り壊して再築することは極めて困難と考えられる。そうすると、本件マンション全体を物理的に一体不可分の建物とみるべきであり、建替え決議の要件は、その全体について判断するのが相当である。

(5) よって、決議無効確認原告らの主張はいずれも採用することができない。

2  本件建替え決議に手続的瑕疵はあるか。

決議無効確認原告らは、被告管理組合が区分所有者らに対し、「費用の過分性」に関する適切な情報提供をせず、過大で算出根拠が薄弱な金額を示すなど誤った情報を提供したため、本件集会の参加者が真意に基づかずに本件建替え決議に賛成する意思表示をしたものであるとの主張をする。

しかし、前記認定の事実によれば、被告管理組合は、A案及びB案が提示された段階である平成七年四月二九日に説明集会を開催し、補修と建替えの利害得失について区分所有者らに説明しているほか、C案が提示され、基礎及び杭の調査が行われた後の同年七月二日にも説明集会を開催して、補修案と建替え案についての検討結果を報告し、区分所有者らに対してアンケート調査を実施している。また、コンサルタントグループ発足後の平成八年七月には、同グループが、法人又は日程の調整ができなかった者を除く一四九戸の区分所有者に直接面接して建替え及び補修の両案について説明し、同年八月には、建替え案及び補修案(議案書案)の内容を区分所有者集会において説明している。さらに、同年九月一五日付けの建替え議案書に建替え案及び補修案の内容が詳細に記載されていること、平成九年一月一二日の本件集会において建替えに反対する者からの質疑応答も十分に行われていること、本件建替え決議に賛成した者の多くが本訴提起後も建替えの意思を表明していること(乙二六の各枝番号)からすると、被告管理組合が区分所有者らに対し、適切な情報を提供しなかったとはいえない。また、前記認定のAないしC案作成の経緯に徴すると、補修費用の算出根拠が薄弱であるとはいえず、その金額も工事内容に照らして過大とはいえない。したがって、右各補修案の提示によって本件建替え決議の賛成者らが誤った表決をしたとは認められない。

したがって、この点に関する決議無効確認原告らの主張は理由がない。

3  法六三条四項に基づく売渡請求権を行使した場合の区分所有権及び敷地利用権の「時価」

(一)  同項にいう「時価」とは、売渡請求権行使の当時における区分所有権及び敷地利用権の客観的取引価額をいうものと解される。そして、客観的取引価額は、建替え決議にかかる建替えを前提とした場合と、これを前提としない場合では大きく異なると考えられるところ、売渡請求権行使の時点では、建替え決議がなされているのであるから、右「時価」は、建替えを前提とした取引価額によって算定されるのが相当である。

ところで、建替えを前提とする区分所有権及び敷地利用権の客観的取引価額をどのように算定するかは問題であるが、通常、建替え決議が行われるのは、区分所有建物の経済的価値が失われるか、又は、著しく低下し、建物の維持、存続が却って敷地の有効利用を阻害している場合であると考えられる。このような場合、建替えを前提とする区分所有権及び敷地利用権の客観的取引価額は、建物を取り崩し、更地として有効利用が可能な状態となった敷地の価額から建物の除去費用を控除した金額に近似すると考えられるから、同項にいう「時価」は、更地となった建物敷地の価格から建物除去費用を控除した金額によって算定することが相当である。

(二) 乙第三八号証(鑑定評価書)では、鑑定評価の価格時点を平成九年五月一五日として、本件敷地の建付地価格を、建物除去費用を勘案しつつ、取引事例比較法による比準価格、収益還元法による収益価格及び開発法による価格から査定し、各区分所有建物の位置に基づく階層別・位置別効用積数比を求め、右建付地価格を効用積数比により配分する方法で各区分所有権及び敷地利用権の時価を算出している。

本件敷地の取引事例比較法による比準価格は一六億九七五〇万円(一平方メートル当たり一九万七〇〇〇円)、収益還元法による収益価格は七億〇七三〇万円(一平方メートル当たり八万二一〇〇円)、開発法による価格は一五億三六三〇万円(一平方メートル当たり一七万八〇〇〇円)と試算されるところ、収益還元法による収益価格については不動産不況の影響がみられることや本件敷地が位置的に賃貸用建物敷地に向いていないことからこれを参酌するに止め、取引事例比較法による比準価格及び開発法による価格に重点を置き、公示価格等を基準とした価格との均衡に留意して、本件敷地の建付地価格を一六億一七〇〇万円(一平方メートル当たり一八万八〇〇〇円)と査定している。また、階層別・位置別効用積数比については、六階六一四号室を標準住戸として、眺望、日照等による階層別格差及び方位、採光、バルコニーの広さ等による位置別格差を考慮して各住戸の効用比を算定している。

(三) 右による不動産鑑定の結果は次のとおりであった。

(1) 別紙物件目録1記載の不動産

16億1700万円(建付地価格)×0.005305(効用積数比)=857万8000円(鑑定評価額)

(2) 別紙物件目録2記載の不動産

16億1700万円(建付地価格)×0.009210(効用積数比)=1489万3000円(鑑定評価額)

(3) 別紙物件目録3記載の不動産

16億1700万円(建付地価格)×0.004994(効用積数比)=807万5000円(鑑定評価額)

(4) 別紙物件目録4記載の不動産

16億1700万円(建付地価格)×0.005198(効用積数比)=840万5000円(鑑定評価額)

(5) 別紙物件目録5記載の不動産

16億1700万円(建付地価格)×0.006556(効用積数比)=1060万1000円(鑑定評価額)

16億1700万円(建付地価格)×0.003550(効用積数比)×0.1(共有持分割合)

=57万4000円(鑑定評価額)

(6) 別紙物件目録6記載の不動産

16億1700万円(建付地価格)×0.005279(効用積数比)=853万6000円(鑑定評価額)

(7) 別紙物件目録7記載の不動産

16億1700万円(建付地価格)×0.004813(効用積数比)=778万3000円(鑑定評価額)

(8) 別紙物件目録8記載の不動産

16億1700万円(建付地価格)×0.005861(効用積数比)=947万7000円(鑑定評価額)

(9) 別紙物件目録9記載の不動産

16億1700万円(建付地価格)×0.005412(効用積数比)=875万1000円(鑑定評価額)

(10) 別紙物件目録10記載の不動産

16億1700万円(建付地価格)×0.005109(効用積数比)=826万1000円(鑑定評価額)

(11) 別紙物件目録11記載の不動産

16億1700万円(建付地価格)×0.011477(効用積数比)=1855万8000円(鑑定評価額)

(12) 別紙物件目録12記載の不動産

16億1700万円(建付地価格)×0.010597(効用積数比)=1713万5000円(鑑定評価額)

16億1700万円(建付地価格)×0.003846(効用積数比)×0.1(共有持分割合)

=62万2000円(鑑定評価額)

(13) 別紙物件目録13記載の不動産

16億1700万円(建付地価格)×0.005385(効用積数比)=870万8000円(鑑定評価額)

(14) 別紙物件目録14記載の不動産

16億1700万円(建付地価格)×0.005332(効用積数比)=862万2000円(鑑定評価額)

16億1700万円(建付地価格)×0.003550(効用積数比)×0.1(共有持分割合)

=57万4000円(鑑定評価額)

(15) 別紙物件目録15記載の不動産

16億1700万円(建付地価格)×0.005332(効用積数比)=862万2000円(鑑定評価額)

(16) 別紙物件目録16記載の不動産

16億1700万円(建付地価格)×0.010864(効用積数比)=1756万7000円(鑑定評価額)

16億1700万円(建付地価格)×0.003846(効用積数比)×0.1(共有持分割合)

=62万2000円(鑑定評価額)

(四) 右認定の事実によれば、本件売渡請求の時点における建物除去費用を勘案して算出した本件敷地の更地価格は一六億一七〇〇万円であり、これに、各住居の階層別・位置別効用比を乗じて算出したものが各区分所有権及び敷地利用権の売渡請求権行使時における時価であるということができ、各売渡請求被告らの有する各区分所有権及び敷地利用権の時価は、別紙売渡請求一覧の同番号欄に対応する「金額」欄記載の金額であると認められるから、各売渡請求原告らは右一覧の同番号欄に対応する各売渡請求被告らに対し、右金額の売買代金債務を負うものである。

(五) 売渡請求被告らは、本件売渡請求における区分所有権及び敷地利用権の時価を、本件マンションの各棟ごとの損傷程度を個別具体的に調査、検討した上で算定すべきである旨主張する。

しかし、前述のとおり、法六三条四項にいう「時価」は、建替えを前提とした取引価格、すなわち、当該建物の取壊しを前提とした取引価格によって算定されるのが相当であるから、右時価の算定にあたって現在の建物の損傷程度を考慮することは適切でないというべきである。

よって、売渡請求被告らの右主張は理由がない。

4  本件売渡請求の効力

(一) 具体的な代金額の提示及び代金額の提供をせずになされた売渡請求は無効となるか。

売渡請求被告らは、具体的な代金額を提示せず、代金の提供がなされていない本件売渡請求は無効であると主張する。

しかし、売渡請求における代金額(「時価」)は、具体的代金額の提示の有無や提示された金額にかかわらず客観的に定まるものであるから、売渡請求権行使の際に具体的な代金額を提示しなくても、当該売渡請求は有効であると解すべきである。また、売渡請求権は形成権であり、売渡請求の意思表示の到達と同時に売買契約が成立すると解され、代金の提供がないことによって売買契約が無効となるものではない。

(二) 本件売渡請求によって成立した売買契約について、売渡請求被告らがした取消し又は解除の意思表示の効果

売渡請求被告らは、長期間にわたって代金の提供がなされないことを原因として、本件売渡請求によって成立した売買契約の取消し又は解除の意思表示をしたとの主張をするが、本件において代金の未提供が本件売渡請求によって成立した売買契約の取消原因又は解除原因に該当しないことは明らかであるから、右主張は認められない。

5  売渡請求被告らによる再売渡請求は認められるか。

売渡請求被告らは、本件建替え決議の日から二年を経過しても本件マンションの取壊工事の着手がないとして、法六三条六項に基づく再売渡請求をしたと主張する。

しかし、同項に基づく再売渡請求は、建物の取壊し工事に着手しなかったことにつき正当な理由があるときは認められない(同項ただし書き)ものであるところ、本件マンションの取壊工事に着手できないのは、売渡請求被告らが本件建替え決議の有効性を争い、任意に建物(専有部分)を明け渡さないことが原因となっているのであるから、工事に着手しなかったことにつき正当な理由があると解すべきである。

よって、売渡請求被告らによる再売渡請求は認められない。

6  売渡請求に基づく区分所有権及び敷地利用権の所有権移転登記手続の履行並びに建物(専有部分)の明渡は、時価相当額の代金支払と同時履行の関係にあるか。

売渡請求によって成立した売買契約においては、原則として、区分所有権及び敷地利用権の所有権移転登記並びに建物(専有部分)の明渡と時価相当額の代金支払とは同時履行の関係にある(民法五三三条)が、区分所有権及び敷地利用権について抵当権等の登記がなされている場合には、買主は、滌除の手続が終了するまで代金の支払を拒絶することができると解される(同法五七七条)。

本件では、別紙売渡請求一覧の番号④ないし⑥、⑧、⑨、⑭ないし⑯に対応する売渡請求被告らが有する各区分所有権及び敷地利用権には担保権の登記がなされていないから、これらの売渡請求被告らについて、区分所有権及び敷地利用権の所有権移転登記手続の履行並びに建物(専有部分)の明渡は、同番号欄に対応する売渡請求原告の売渡請求に基づく売買代金の支払と同時履行関係にある。しかし、その余の売渡請求被告らが有する各区分所有権及び敷地利用権には、いずれも抵当権(根抵当権を含む。)の登記がなされているから、右被告らが同時履行の抗弁権により売渡請求原告らによる代金の支払があるまで区分所有権及び敷地利用権の所有権移転登記並びに建物(専有部分)の明渡の履行を拒むことはできないというべきである。

第四  結論

以上のとおりであって、第一事件及び第二事件原告らの請求は、いずれも理由がないからこれを棄却し、第三事件ないし第七事件各原告らの請求は、主文掲記の限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用及び補助参加によって生じた費用の負担につき民事訴訟法六一条、六四条、六五条一項、六六条を適用し、第三事件ないし第七事件の各明渡請求に関する仮執行の宣言は事案に鑑みこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。

(裁判官田口直樹 裁判官武宮英子 裁判長裁判官將積良子は、転任のため、署名押印することができない。裁判官田口直樹)

別紙不動産目録<省略>

物件目録<省略>

担保権目録<省略>

売渡請求一覧<省略>

図面(一)(二)<省略>

計算書一、二<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例